走れダイエットランナー!

ポンコツ夫とポンコツ嫁はん。ランニングで健康維持しつつ映画やテレビ見ながら言いあらそうブログです。

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お方さま・再起動(リブート)!!【フルマラソン完結編】『あなたに、褒められたくて』 中編 2016年4月3日 11:45:40〜13:19:25 

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18kmあたりでお方さまがトイレを訴えた。

 

運よくすぐ近くにトイレがある。

 

僕はひと足はやくトイレまで行き、混み具合を見た。

 

そこはちょうど、佐賀の観光名所となっている、「佐賀のエッフェル塔」の下であった。エッフェル塔下の仮設トイレ。女性用は、これまた運よく誰も並んでいなかった。

 

お方さまがトイレに入り、用を足して、すぐに出て来た。

 

そんなお方さまを見て、僕も再び走り出した。

 

もう少しでハーフの距離。ハーフを越えたら少しペースを落とそう…

 

そう考えながら振り向くと、お方さまの姿がない。

 

驚いて後方を見ると、ずっと離れたところにいる。

 

「どうした?」

 

「なんか、もう、さっきみたいなペースでは走られへん…。足が痛くなった…」

 

「どう痛いん?」

 

「右足の筋肉が…。なんか、固まったみたいになった…。キューッて、固まったみたい…」

 

「…それ、足が攣ったんやで!」

 

「ええっ?!これが攣ったってことなん?!」

 

「…トイレ、和式やった?」

 

「うん」

 

「疲れがきてて、不用意にしゃがんだんが、悪かったかも知れへんな…」

 

 

お方さまは足が攣ったことがない。また、なんどもフルマラソンの経験があるお方さまの従姉妹が、足がつった経験がない、と言っていたので、僕は勝手に、お方さまは足が攣らない家系だと思い込んでいたのだ。

 

僕はポケットに手を入れた。僕自身は、昨夜、足つり対策の薬である「コムレケア」を飲んでいた。そして、攣った時のことを考え、自分用に同じ薬を持っていた。

 

 

さらに万一のことを考え、予備を3袋、持ってきていた。なぜそんなに持ってきてたのか、今となっては自分でもわからない。その内の1袋を開け、お方さまに飲ませた。

 

そしてここから、終わりが来ないんじゃないか、と思うほどの、壮絶な闘いが始まった。

 

まず僕は、ハーフ後からと宣言していたキロ8:30のペースに落としてみた。

 

しかしそのペースに、お方さまはついてくることができなかった。必死に喰らいつこうとしているが、次に振り返った時は5メートル、10メートルも後方にいた。

 

僕はお方さまの前を走ることをやめた。

 

「これから、横に走ることにするよ。オレが前を走って引っ張っても、もう着いてこれへんやろ?」

 

「…うん」

 

「じゃあ、レーコのペースで行き。歩きたくなったら歩いていいよ。したかったら屈伸して。エアサロは、オレのリュックの右のポケットに入ってるから」

 

「分かった」

 

 

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赤い点と青い点が再び動き出したのを見て、“科学者”は少しだけホッとした。彼らはまだあきらめたわけではないんだ、そのことがわかったからだ。

 

トラブルの原因が自分の推理通りなのであれば、「お方さま」にはまだチャンスがある。

 

“科学者”は、「お方さま」が足が攣ったに違いない、と見当をつけていた。初フルは何があるかわからない、腹痛を催した可能性もある。地面の石ころにつまずき、怪我をしたのかもしれない。

 

しかし“科学者”は、ほぼ足攣りに間違いあるまい、と睨んでいた。「お方さま」のフォームは、動画で何百回も見ている。この程度のペースで、この程度の距離で、足が上がらなくなるようなフォームではない。何かにつまずいたりする可能性は低い。

 

このペースの落ち具合から見ると、足攣りがいちばん考えられる。

 

おそらく右足。お方さまは右足の接地時間が左よりも若干、長い。左右のバランスは修正できていなかった。

 

旦那さんは、数日前、「お方さま」の家系は足が攣らない、とか言っていたが、それが間違いだったのだろう。気温は恐れていたほどではないにしろ、やはり蒸し暑いはずだ、お方さまの発汗量によるミネラルの喪失具合、初フルという緊張、あるいはトイレの形状。

 

そしてさらに、「再び走り出した」という事実。

 

全てを考慮し、お方さまは足が攣ったに間違いはあるまい。

 

そして、足が攣ったのなら…

 

そのままの状態で、あと20km走ることはかなりの苦痛だろうが、不可能ではない。

 

何よりも、あの頼りない旦那が横にいる。

 

あの頼りない旦那さん、確か、下関のマラソンの時、30km地点で足が攣った経験があるはずだ。

 

ポンコツ脚の情けないランナーだけど、あの時の経験が彼にはある。

 

足が攣っても、ゆっくり走れば、決して重篤な後遺症を残すことはない、と知っている。

 

彼のポンコツが、今、初めて役に立つかもしれない。

 

“科学者”はパソコンに叫んだ。

 

「いけ!あきらめるな!」

 

彼は自分が泣いていることにさえ気づいてはいなかった。

 

 

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さが桜マラソンの目玉、吉野ヶ里遺跡。ハーフを越えてからも、そこになかなかたどり着けない。ランナーは吉野ヶ里遺跡へと向かう道すがら、出てきたランナーとすれ違う。そこでもしかしたら誰かとすれ違うかもしれない。

 

さとじゅんがいた!すごく調子が良さそうだ!さとじゅん!さとじゅん!と僕たちが叫ぶと、向こうも気がついてくれて、手を振ってくれた。

 

さらにその直後、さえみんが来た!うさぎの耳をつけて走っている。肉離れが治った直後ときいていて、表情はやや険しそうに見えたが、僕たちに気づくととても明るい顔で手を振ってくれた。

 

吉野ヶ里遺跡は美しい公園で、2年前のこの大会で、お方さまはたった1人でこのなかでラン友のぼりを持ち、応援してくれた、思い出の場所だ。

 

だか、その風景を愛でる余裕など、今のお方さまにはなかった。

 

公園の出口手前にエイドがある。足が攣ってからというもの、テンションがガタ落ち。先ほどから補給食すら口にしなくなってきたお方さまだったが、ここでは珍しく、そうめんを食べたい!といった。僕はそうめんをもらい、お方さまに手渡し、自分でも口にした。

 

美味しい!!お方さまの表情が緩んだ。出汁の塩分や、そうめんそのものののどごしなど、疲れたカラダに染み渡った!!

 

公園出口でお方さまは痛めている右足を台にのせ、ストレッチしていると…

 

「うわっ!!なんや、コレ?!」

 

ふくらはぎ真横の中央部分に、赤ちゃんのこぶし大のコブが2つ、くっきりと浮き出ていた。

 

「ああ、それ、足が攣ったらよー見るコブやで、心配ないよ」

 

「えー、めっちゃ気持ち悪いー!」

 

それでさらにテンションが下がったのか、そこからお方さまのペースがますます落ちできた。

 

もうずっと、右足を引きずるように走っている。ペースはキロ9分も出なくなってきている。

 

初フルは、後半、何があるかわからないから、なるべく前半で貯金が欲しい、と、トレーナーをかって出てくれたドクは言っていた。そのため、前半キロ7:40と言っておきながら、実際は7:20くらいて走っていた。

 

そのため、関門通過時間は、ずっと閉鎖時間まで45分くらいの貯金があった。でも貯金はやがて35分、25分、と少しずつ切り崩していった。

 

30㎞過ぎに救護所があった。僕はお方さまの手を引き、救護所にはいった。

 

「足が攣ったみたいなんです、マッサージとかできませんか?」

 

若いスタッフさんが、お方さまを座らせ、言った。「攣った時にマッサージで筋肉に刺激を与えると、攣りがひどくなってしまう可能性があるんです。ストレッチしましょう」

 

そのスタッフさんが、お方さまの右足を曲げたり伸ばしたり、踵を持ち上げたりしながら、患部を氷のパックで冷やしてくれたりした。

 

僕はお方さまの表情を見続けていた。苦痛に歪んではいるが、恐れていた暑さによる影響は全く見えない。以前、真夏の練習の時、汗がかけずに体温がこもり、頬が真っ赤に紅潮し、目がどろんとしたことがあるが、そんな様子は微塵もなかった。

 

この日のために、お方さまはずっと練習を続けてきた。苦手な早起きもして、決められたメニューをこなせるよう、自分で時間を作っていた。重篤な後遺症が残らないなら、なんとか完走させたい。お方さまの目から、まだ闘志は消えていなかった。僕はまだ止める時だとは思わなかった。

 

処置が終わり、我々は再びコースに復帰した。

 

「こんなペースで間に合うん?」

 

お方さまが聞いた。救護所を出たとき、4時間をはるかに経過していた。

 

「まだまだ余裕で間に合うよ!」

 

関門はまだあと3つもある。とっさに間に合うかどうか、僕には計算できなかったが、正直いうと、かなり厳しいと睨んでいた。

 

でもこの時は、笑顔でこう答えるのがベストだ、と思った。

 

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(続く)