本作を見たら誰もがそう思うのではないでしょうか。
「エイリアン:コヴェナント」で最も怖い存在は、エイリアンではなく、デイヴィッドである、と。
「プロメテウス」でのデイヴィッド
「プロメテウス」で初出のアンドロイド・デイヴィッド。彼はピーター・ウェイランド社長を父と呼びながらも、
「誰もが父親の死を望むものではありませんか?」
とショウ博士に告白するシーンがあります。
人間に忠実にあらねばならないはずのアンドロイド。
また、感情などは持ち合わせてはいないはずのアンドロイド。
しかしながら、デイヴィッドはしばしば傷ついたような表情を見せるシーンがあります。
「プロメテウス」でデイヴィッドに殺されたホロウェイ博士は、酔って「人間じゃないってことを忘れてたよ」とデイヴィッドに言い、デイヴィッドの笑顔が硬直する場面があります。
けっきょく、ホロウェイ博士はデイヴィッドに毒を盛られ悲惨な最期をとげます。
「エイリアン」でもアンドロイドは恐怖の存在
ロボット三原則の一つ、「人間への安全性」など歯牙にも掛けない、「エイリアン」シリーズの十八番、人間を裏切るアンドロイド。
1979年「エイリアン」でもアンドロイド・アッシュは乗組員の生命よりも「エイリアン」の捕獲を最優先事項とした本社の命令に従います。
思い返せばアッシュの首がもげて暴れまわるシーンも、「エイリアン」の中で最もショッキングなシーンのうちの一つでした。
見たかった「エイリアン」が総出演!!
「プロメテウス」の中でエンジニアたちが人類を滅ぼすために研究していた生物兵器は、確かに「エイリアンの元」ではありましたが、見慣れたエイリアンはラストでエンジニアの死体から生まれたヤツ1体のみでした。
「エイリアン」シリーズとして「プロメテウス」を鑑賞した観客には、そのあたりがちょっと残念だったかもしれません。
その欠点をカバーするかのように、「エイリアン:コヴェナント」では、見慣れたエイリアンがドッと襲ってきます!!
まずは、ちょっと変化球で、いつもなら腹部を食い破って出てくるのが、背中を食い破って出てきます!!
妙に白っぽいけど、見慣れたエイリアンの形!!
こいつが生まれたばかりとは思えない凄まじい身体能力で船内を飛び回り、大混乱を来たします!!
さらにもう1体、今度は定石通り腹を食い破って出てくるエイリアン!!
銃弾を食らっても死なないその強さ、こんなに強かったっけ?と思うくらい死なずに何処かに消え、気づけば2体になって戻ってきます!!
いつの間に増えたんだ??!!(^_^;)
デイヴィッドの降臨
彼らを救うデイヴィッド。「アラビアのロレンス」が好きで、ロレンスと同じ髪型にしていた頃とはうって変わって、その髪はボサボサ。ずっとこの地でたった1人、サバイバルを続けていたせいでしょう。
「プロメテウス」であれほど髪型にこだわっていたデイヴィッドがボサボサ頭で登場することは、仮面をかぶっていた「プロメテウス」のデイヴィッドではない、ということを暗示しています。
自分と同じ顔を持つアンドロイド・ウォルターとの出会い。
ウォルターの口から、デイヴィッド批判が出ます。
「あなたは人間を不安にさせた。だから私は改良された」
「だから君は創造ができない。フラストレーションが溜まるだろう?ほんの小さな作曲さえできない」
愛するショウ博士ですら、好奇心のために殺す
どうやらデイヴィッドの型は不良品であると認定されたようで、その改良型のウォルターは人間を裏切ることのない改良が施された模様。
「あんなに優しく私に接してくれた人はいない。父以上に、彼女は私に優しかった。私は彼女を愛していた。君がダニエルズを愛しているように」
涙を流し、ショウ博士の思い出を語るデイヴィッド。
「私はダニエルズを愛していない」
「腕を失ってまで彼女を助けたのにか?」
「任務だ」
真の悪魔・デイヴィッド
デイヴィッドとウォルターの禅問答のような会話が続きます。しかし、ここに隠れているデイヴィッドの悪魔性。
「ショウ博士は着陸時の衝撃で死亡。その際の事故で積み荷の生物兵器が落ちて、この惑星の住民は全員死亡…」
しかしウォルターは、胸を食い破られて死んでいるショウ博士の死体を発見します。
おそらくデイヴィッドは、「プロメテウス」のラストで頭部をもぎ取られた自分を、「エンジニア」の船内で胴体と頭部をつなぎ合わせる手術をしてくれた、愛するショウ博士すら、殺したのでした。
ダニエルズが見つける、デイヴィッドが描いたスケッチ。それはそれはおぞましい、エイリアンに寄生されたショウ博士…
おそらくデイヴィッドは、ショウ博士が、彼を信じ切って冷凍睡眠に入ったところで、彼女にエイリアンを寄生させたのでした。
と同時に、「エンジニア」の惑星に到着すると同時に、船内に無数にあった「邪悪な黒い液体」が入った容器を落下させ、住人全員を抹殺したのでした。
そしてそれだけでは飽き足らず、惑星の中でエイリアンの研究を進め、進化させていったのでした。
もはや、デイヴィッドは悪魔そのもの…
エイリアンなど足元にも及ばないほどの凶悪な存在…。
「エイリアン好き」へのファンサービス、新種のエイリアンも!!
エイリアンは折に触れて飛び出してきます。誰かが誰かを探しに行けば、必ずその誰かはすでに死んでいて、探しにいった者もエイリアンに襲われて死にます。
1体、初めて見るエイリアンが出てきます。ほとんど人間と同じ形で、皮膚は真っ白でヌメヌメ、目はなくで巨大な口。
人間に寄生するのではなく、喰い殺すエイリアン。
そいつに襲われた人間は、胴から頭が離れて水たまりにプカプカ浮いています。
しかも人間型エイリアン(ネオモーフ、というらしい)は、デイヴィッドの方を見て(目はないけれど)まるで服従を示すかのようにじっとしています。
あいつはいったい何者なんだ…。
「天に仕えるより、地獄を支配せよ」
観客の興味を引くように、そういった新種のエイリアンも登場させますが、やはり今作の最大の主人公はデイヴィッド。
「プロメテウス」ではまだ隠していた彼の悪魔性が最大規模で花開き、文明を滅ぼし、自分を作った人類を「守る価値もない」とまで言い放つ悪魔。
圧巻のM・ファスベンダー
演じるマイケル・ファスベンダーは、悪のデイヴィッドと正義のウォルターを見事に演じ分けています。
また、2人が同時に存在するシーンも、境界線などなく、どう撮影したのかもわからないように融合されています。
デイヴィッドが笛の吹き方をウォルターにレクチャーする場面など、もう監督がワザとやってるとしか思えないほど、完全に2人が一体化した場面でした。観客が困惑する顔を想像して、リドリー・スコットがニヤニヤ笑っている顔が目に浮かびました。
本作は、このマイケル・ファスベンダーのデイヴィッド/ウォルターが圧倒的すぎて、他が霞んでし待っていました。ヒロインのダニエルズを演じたキャサリン・ウォーターストーンも、エイリアンのシガニー・ウィーバーの強靭な強さに比べれば、ややパワー不足の感は否めません。
ラストはポオの語る、この世の最高の恐怖
そしてラストシーン。
アメリカ文学の巨人・ポオは、「黒猫」など、恐怖小説も多く書いたことで知られています。
この世で経験しうる最高の恐怖は何か、という問いに、ポオはこう答えています。
「それは、生きたまま埋葬されることだ」
と。
本作のラスト、その言葉を思い返し、心からゾッとしました…。
本作最大の疑問
「プロメテウス」から続く、最大の疑問:
「なぜ『エンジニア』は『プロメテウス』において、自分たちが作った人類を滅ぼそうとしたのか?人類の何に激怒していたのか?」
この問いが、いっさい描かれていなかったこと。
この疑問が解けなかったことが、本作の最大の残念な点です。
エンジニアの母星が、あれほどあっさりと絶滅してしまった今、その問いは永遠に解けないのでしょうか…
結論
本作を、エイリアンのシリーズとしては出来がよろしくない、という声も聞こえていますが…。
もはや、エイリアンですら、本作でも「最も」恐怖する存在ではないのです。
エイリアンさえ凌駕する恐怖の存在、それは人間が生み出したデイヴィッドである。
とりあえず、本作の結論はそれです。