ついに観てしまいました、「へレディタリー 継承」。
STORY
グラハム家の祖母・エレンが亡くなった。娘のアニーは夫・スティーブン、高校生の息子・ピーター、そして人付き合いが苦手な娘・チャーリーと共に家族を亡くした哀しみを乗り越えようとする。自分たちがエレンから忌まわしい“何か”を受け継いでいたことに気づかぬまま・・・。
やがて奇妙な出来事がグラハム家に頻発。不思議な光が部屋を走る、誰かの話し声がする、暗闇に誰かの気配がする・・・。祖母に溺愛されていたチャーリーは、彼女が遺した“何か”を感じているのか、不気味な表情で虚空を見つめ、次第に異常な行動を取り始める。まるで狂ったかのように・・・。
そして最悪な出来事が起こり、一家は修復不能なまでに崩壊。そして想像を絶する恐怖が一家を襲う。
“受け継いだら死ぬ” 祖母が家族に遺したものは一体何なのか?
(公式HPより)
正直な感想
「とにかく怖い」、という噂は聞いていましたが、いろんな理由から劇場で見ることができず。
DVDで出たのですぐに観ました。
正直な感想は、
劇場で観なくて、よかった…。
でした。でもそれは決して、高い料金で見る価値がない、という意味ではなく。
あまりに怖すぎて、劇場のような密閉された空間で観たら、この恐怖に耐えられたか自信がない
と思ったからです…。
おそらく、少年時代に観たなら、一生のトラウマになったことでしょう!!
ですので、たとえ大人でも、ホラー映画が嫌いな方にはゼッタイにオススメしません!!とてもよくできた映画なので、怖くても画面から目が離せず、最後まで見てしまうはずです!!
そうすると、ホラー耐性のない人ならどうなってしまうか…。
主人公がクライマックスで発狂してしまうのですが、あの姿が恐ろしく恐ろしく。
ホラー耐性のない観客が見たら、ああなってしまうのでは…。
という思いが頭から離れません。
処女作
監督のアリ・アスターという人は、本作がデビュー作だそうです。こんな映画を撮れるなんて、どんな人なんだろう…。
普通のアタマじゃない気がする…。イっちゃってる人じゃないと撮れない気がする…。
とにかく、この方の2作目を早く観たいです。
緻密な計算
決して、ヤク中患者みたいな頭脳でメチャクチャ作った、ってわけではありません。周到な計算が感じられます。
最近ではホラー映画さえ、「スタイリッシュ」な感覚なものがよしとされています。美男美女の出演者、やや露出過多な女性陣、テンポのいい展開…。
しかし本作からそんな印象は全く受けません。極めて古典的なホラー、われわれが子供の頃、怖くて見られなかったような重厚で禍々しい作品になっています。
一度見ただけではわからない、細かな演出。例えば、少女はパーティーからの帰りに、ある理由からクルマから身を乗り出していると、電柱に頭をぶつけて死ぬのですが…。
パーティへの行き道の段階で既にその電柱は何気なく大写しになっていて。
しかもその電柱には、のちに判明する悪魔の紋章がうっすらと描かれていました。
つまり、少女の死は事故死ではなく、最初から悪魔の教団に計画されていたものなのでした。
2度目の鑑賞の時、DVDを止めて、巻き戻して確認しました。
一度見ただけでは絶対にわかりません。
でも、われわれは何気なく見ていても、脳の奥に印象として残されているので…。
あの電柱が怖い、と意識下でイメージが出来上がっていたと思います。
少ない出演者、濃厚な演技
出演者はほぼ5人。
主人公アニー、その夫スティーブ、長男ピーター、長女チャーリー、そして友人のジョーン。
このわずか5人が、それぞれに濃厚すぎる演技を観せてくれます。
母・アニー
特に主人公アニーを演じるトニ・コレットの、次第に正気を失っていく様子は鬼気迫るもので。
彼女の顔相の変わりようが見どころの一つ。
もう途中からはあまりに怖くて、「お母さんの顔芸やな」って自分に言い聞かせていないと耐えられないくらい、彼女の顔面の「圧」がすごかったです!!
最も恐ろしい出演者=少女
しかし僕が最も怖かったのが…。
長女・チャーリー役のミリー・シャピロという少女。
もう、この少女を見つけてきた段階で、この映画の半分はできたと言ってもいいんじゃないか、というくらい…。
この娘が、立っているだけでもう怖い!!
「へレディタリー 継承」 公式HPより
きっと、役を離れれば可愛い子なんでしょうが…。
本作の中では悪魔に取り憑かれ、非業な最期を遂げる、呪われた少女役。
とにかく圧倒的な存在感で、僕は最初はこの子が主人公だとばかり思っていました!!
ところが、チャーリーは開始わずか30分で死んでしまいます!!
その死に方が、恐ろしすぎる!!
彼女がナッツアレルギーであることは、冒頭でサラっと説明されているのですが。
兄・ピーターと一緒に来た学校のパーティー会場で、ナッツ入りのチョコレートを食べてしまい、アレルギーで喉が腫れ上がり、呼吸困難になってしまいます!!
慌てた兄は妹をクルマに乗せ、病院へとクルマを飛ばします、時速120kmで!!
妹は後部座席で、呼吸ができず、喉をかきむしり!!
酸素を求め、車窓から上半身を出して必死に呼吸!!
突然、道に横たわる、動物の死骸!!
慌ててハンドルを右に切る!!
そこに電柱が!!
ゴンッ!!電柱にモロにぶつかるチャーリーの頭!!
チャーリーはなんと、首から上がもげる、というおぞましい形で絶命…。
恐怖の演出
ゴンッ!!の音の後は、急ブレーキ!!そして…。
急ブレーキのあと、延々、1分半にも渡って、お兄ちゃんの顔のアップ…。
間違いなく、妹を殺してしまった
と悟ったお兄ちゃんの顔だけを、延々と映し続け。
ホラーだけど、首がもげた直接な表現はしないんだ…
とこっちが油断した直後、
そのまま放置され、蟻がたかりまくったチャーリーの生首!!
発狂したように泣く母!!
もう地獄絵図です!!
この緩急を巧みに使った恐怖演出で、見るものはもういたたまれなくなります!!
オカルトだと気づかない
本作は、ホラー(恐怖映画)の中でも、オカルトの部類に入るものですが。
内容を深く知らずに見たものにとっては、途中までオカルトなのかどうかの区別がつきません。
もしかしたら、精神に異常をきたした誰かが見ている幻覚なのかな、とも思ってしまいます。
しかし、降霊術を行う友人、ジョーンが登場するあたりから、
あ、オカルトだったんだ
とわかります。
妹チャーリーの死は、母に降霊術をさせるため
ところがオカルトへの導入口だったこの降霊術こそ、実はとんでもない罠で!!
母アニーが、死んだ娘に会いたい一心で行った降霊術こそ…。
邪悪な悪魔教団による罠!!一家の上に、悪魔の魔の手がグイグイと近づいてくるのでした!!
妹チャーリーの死は、母にこの降霊術を行わせるための罠だったのでした!!
このあたりから、ピーターの様子が変になって来ます。聞こえるはずのない、死んだチャーリーの癖だった、口の中で舌を「コロッ」と言わせる音が聞こえ。
死んだチャーリーと同じようなアレルギー反応が出て…。
死んだチャーリーの亡霊に怯え…。
この世のものでない腕に掴まれ、首をもぎ取られそうになり!!
高校生のピーターが、どんどんと追い込まれていきます!!
長男・ピーター
どこかで見たな、と思ったら「ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル」で、現実世界の中の主人公役のアレックス・ウルフ。
ジュマンジではコミカルな役でしたが、本作ではまったく一転、次第に追い詰められ、恐怖のあまり号泣、号泣!!
彼の追い込まれる演技も、精神的に見るものをどんどんと追い詰めます!!
息苦しいまでに。
「へレディタリー 継承」 公式HPより
母・アニーもどんどん追い詰められ、もはや彼女が正気を保っているのか気が狂っているのか観客もわからなくなって来ていて。
そんな中、彼女が友人ジョーンが、実はアニーの死んだ母・エレンと生前からの知り合いだったことに気づきます。
秘密主義だったアニーの母、ずっと絶縁状態だった母…。
慌てて、アニーが母の遺品を見ると、母がオカルトに傾倒していたことがわかり。
いかがわしい集団で、満面の笑みを浮かべる母の写真があり。
その脇にいつもジョーンが控えていたことを知り。
その集団は、悪魔を崇拝していたことがわかります!!
そして、「悪魔の降臨には、男の体が必要」の文字が。
これで全ての謎がカチリとはまります!!
かつて、アニーには男の兄弟がいましたが、彼は「母が自分の体に他人を入れ込んだ」と言って首吊り自殺をしていました。
精神を病んでしまった妄言か、と思われていましたが、アニーの母は悪魔を自分の息子に体に宿そうとしていたのでした!!
アニーは母と絶縁していたので、長男・ピーターが生まれた時は母とは会わせていませんでしたが、
長女・チャーリーが生まれた時は、やや関係を修復し、長女とは会わせていました。
アニーの母は、孫であるチャーリーを溺愛していましたが、チャーリーは女。悪魔を宿せる体ではありません。
それでもアニーの母はチャーリーの体に悪魔を宿すべく、色々と手を打っていたと見え…。
それでチャーリーは、普通の子とは違った子供に育ってしまいました。
おばあちゃんに、男になれって言われた
ともチャーリーは語っていました。
夫・スティーブ
そんな中…。
たった1人、悪魔の影響を受けていなかったアニーの夫・スティーブ。
彼にとっては毎日が地獄だったでしょう。愛する長女の死、明らかに常軌を逸し始めた妻、精神錯乱状態の息子…。
スティーブ役のガブリエル・バーンは、ただ1人、普通の人の役です。ですので悪魔に取り憑かれて追い込まれることはありません。
ただ、日に日に狂人化していく妻に対し、最後まで誠実に接しようと試みますが、家庭が壊れていく一般人の苦悩、というものを抑えた演技の中で実にねちっこく出していて。
オカルトな呪いに苛まれる家族と違って、ただ1人だけ、普通人の普通の苦悩、が痛いほど伝わってきました。
なぜ、スティーブだけ悪魔に取り憑かれなかったかといえば、アニーの母の血を「継承」していないからに他なりません。
しかしそのスティーブも、悪魔の狡猾な罠で、一瞬にして炎にまみれるという、痛々しく禍々しい最期を遂げます!!
アニー、ピーター、悪魔に
ここにいたり、アニーの精神は完全に崩壊、悪魔の手先となり!!
重力すら超越した超常的な存在となります。
目覚めたピーターは、父の丸焦げ死体を発見。
そしてここからの、怒涛のクライマックス!!
髪を振り乱し、明らかに邪気を持ってピーターに全力疾走してくる母アニー!!
必死で逃げるピーター!!天井裏の倉庫へ!!
そこには祖母・エレンの首なし遺体があり。
どうやって入ってきたのか、宙に浮きながら自分の首を切り落としている母アニーの姿が。
そして全裸で手招きする悪魔教団の面々。
パニックになり、屋根裏部屋から外に飛び降り!!
ピーターも、死んでしまいます。
やがて、ピーターの遺体に青い光がのりうつり。
再び立ち上がったのは、もはやピーターではなく…。
蘇った悪魔。
ツリーハウスの中には悪魔教団のメンバーが集結。
首のない祖母・エレンも、今首を切ったばかりのアニーも、ひれ伏す中…。
蘇った悪魔に冠がかぶせられて、物語は終わります。
女性陣、全員首ナシ
祖母・エレンは冒頭の葬儀のシーンではちゃんと首はついていますが…。
悪魔教団メンバーに掘り起こされ、主人公の家の屋根裏部屋に置かれた時には首が切られていて。
長女・チャーリーも首がもげて死に、
悪魔に取り憑かれたアニーも、最後は自分で自分の首を切り落とします。
これぞ、「継承」でしょうか。リーの血を引く女は全員、首を切って悪魔に捧げなければならなかった…。
ミニチュアハウスのメタファー
冒頭、家に飾られているはずのミニチュアハウスの部屋にカメラが近づくと、そこから父・スティーブが入ってきて物語が始まります。
また、途中で祖母の幽霊が立っている、と思ったらそれは逆にミニチュアハウスで。向こうから巨大なアニーの顔がのぞいています。
神の視線なのかな、と思っていましたが、途中からこの物語は悪魔の物語であることがわかり。
悪魔の手のひらで弄ばれている人間たちを表しているのでした。
ホラーファンは必見!!
と、ここまで書くのにかなりの時間とエネルギーを費やしてしまいました…。
今、自分が書いたものを読み返しても、頭がおかしい人間が書いたんじゃないかと思ってしまうような文章が並んでいます(^_^;)
とにかく、怖い映画でした『へレディタリー 継承』。
ホラーファンには、絶対のオススメですが!!
ホラーファンじゃなければ、見るのはオススメしません!!