(主人公二人、共に70歳をすぎたブライソンとカッツ、トレイルの行手を阻む大きな沢にぶち当たる。なんとか渡れそうな岩場の前でなかなか進めずにいると、二人の若いトレイルランナーが登場。)
トレイルランナーA:どうかしましたか!
トレイルランナーB:僕たちが先に行って荷物を置いて、戻ってきます!
トレイルランナーA:それから戻ってきてお二人の荷物を持ちます!
トレイルランナーB:簡単です!大したことじゃありません!
カッツ:これも挑戦だ、楽はしたくない。
ブライソン:でも感謝するよ!
トレイルランナーA:そうですか!
トレイルランナーB:じゃあお先に!
(飛ぶように岩場を駆け抜ける二人を見ながら)
ブライソン:あの2人、爽やかだな!
カッツ:ああ!
ブライソン:…でもオレ、あいつら嫌い!
カッツ:オレも!
(二人の老いぼれ、よろよろと岩場を進むが、案の定バランスを崩し、二人とも川にドボン!!)
ブライソン:(ずぶ濡れになりながら)よし!うまく行った!
カッツ:サッパリしたぜ!!
世の中の先行きが不透明になると、ランニングブームが起きるという。ランニングは道具がいらないからお金があまりかからないし、世の中への不安は人を走らせるらしい。
ランニングの映画ではないが、やはり、カラダひとつで延々と歩く、という映画が立て続けに作られているのは、そんな世情の表れだろうか。最近では、「わたしに会うまでの1600キロ」という映画があった。
ただ、「わたしに会うまでの1600キロ」はとてもシリアスで、主人公が旅に出る理由はとても悲劇的なものであったが、本作は違う。とても上質な喜劇だ。
映画「ロング・トレイル!」は、孫が3人もいる老いた旅行作家・ブライソンが、ふと、3400kmにも及ぶアパラチアントレイルを徒歩で踏破したいと思い立ち、相棒を募ると、40年前、軽蔑しあって縁を切った旧友・カッツだけが名乗りを上げたので、彼と二人で壮大な旅に出る、という話だ。
ブライソンを演じるのはロバート・レッドフォード。80歳になられたようだが、映画の冒頭、友人の葬儀のシーンで喪服で立つ姿は往年の色男ぶりを見せる。
驚いたのは、旧友・カッツ役のニック・ノルティだ。と言ってもほとんど「48時間」でエディ・マーフィーとコンビを組む酒浸りの刑事役くらいしか知らないが、あの映画のニック・ノルティは強烈な印象を残している。組織からはみ出し、ほんらい囚人であるエディ・マーフィーにブチ切れながらも事件を解決する敏腕刑事役だった。
それが見る影もなく太っている。あまりの外見の変わりようにはびっくりした。
とにかく、映画はムチャクチャ面白い!!
何気ない会話も、とにかく洗練されたオモシロ会話で、会話を聞いているだけで笑ってしまう。
過去に軽蔑しあって別れた2人だから、きついトレイルの旅でも、いつか互いにブチ切れるんだろうな、と思ってみていると…
「老い」は彼らを成熟させ、どんなに喧嘩しても、いつか互いを許してしまう。「老い」ならではの優しさに包まれながら物語は進む。
物語のクライマックス。足を踏み外し、転落する2人。狭い岩場に落ち、滑落死は免れるが、老いた体では道に戻ることができない。
「死」あるのみか…
ブライソン:再会が、遅すぎたな…
カッツ:ああ…。後悔してる。
(その後、二人は、あのトレイルランナーにより発見される。)
トレイルランナーA:今すぐ、助けに行きます!
ブライソン:あの2人、爽やかだな!
カッツ:ああ!
ブライソン:あいつら、大好きだ!
カッツ:オレも!
ランナーなら、多かれ少なかれ、トレイルを走った経験はあるだろうし、その非日常な空間を走る快感は忘れられないだろう。
また、ランナーでなくても、山に行ったことがある人なら、その美しい景色の非日常性に魅せられたことだろう。
ランナーでもなく、山に行ったことのない人でも、心のどこかで、一度、トレイルと呼ばれる場所に行ってみたい、と思っているのではないだろうか。
面白い会話と雄大な景色に、あっという間に映画は終わる。
そしてきっと、トレイルに行きたくなる。
でもなぜ、人はそれほどトレイルに魅かれるのか?
ブライソン:自然学者ジョン・ミューアがこう言った。「パンを手に入れたらリュックに詰めて、垣根を飛び越えろ!」ってね。