久しぶりに、映画って素敵だなあ!と思いました。
冒頭の、高速道路でのダンスシーン、多分ノーカットで(そう見せてるだけでしょうけど)撮影しています。現実ではありえない、夢のようなシーン。これから始まる世界は、古き良きアメリカ映画の、特にミュージカル映画に代表される、夢のような2時間なんだ、とワクワクさせられるシーンでした。
『冬』で始まり、『冬』で終わるこの映画。でも最初の『冬』と最後の『冬』はまるで違う描き方になっています。
ストーリーなんて、本当に、あってないようなもの。
女優を夢見る娘が、何度もオーディションに落ち、傷つきながらLAで生活していると、ジャズピアニストを夢見る青年と出会い、意気投合。互いの夢を追いかける手伝いをしながら、いつしか、彼は、彼女に安定した生活を捧げるため、夢を軌道修正していく。彼女の方の夢は打ち砕かれ、傷心のまま故郷へ帰るが、最後の舞台を目にした映画関係者から奇跡のオファーが舞い込み…
『冬』で二人は出会い、
『春』で二人は惹かれあい、
『夏』で強く愛し合う。
ここまでは、映画のタッチは夢のよう。登場人物たちは、古き良き映画のような、原色に近いような衣装を着て、場面は何度もミュージカルシーンに転換し、おとなの絵本を読んでるみたいに、夢のようなシーンが続く。
グレッグとセブと、約束をダブルブッキングしてしまったミア。グレッグの方が先に約束してたから、高級レストランで食事してても、セブのことが気になって仕方ない。
グレッグとその兄は、高級リゾート地がどうしたこうした、と、セレブっぽい会話ばかり。
一方のセブは、薄汚い映画館の前で、化繊のスーツを着て、ずっとミアを待っている。
その時、高級レストランのBGMで流れてきたのが…
あの時、セブがピアノで弾いていた、あの曲。
(YOUTUBE貼り付けたいけど、公式のがありません(T . T) "mia & sebastian's theme"でググってみてください)
ミアは意を決し、レストランの席を蹴り、セブの元へと走る。
もう笑っちゃうほど、少女漫画的な展開!!
でもそれがイイ!!
どちらかといえば、化繊側の人間としては、セブを応援したくなるのが人情!
一方、観念して一人で映画館の席に着いたセブ。
ミアはセブを探して、映画館の一番前に立ち…
映写機の光が、天使の後光のように彼女を照らす…
そしてあの美しい、天文台のシーン。
何度かキスをしようとするたびに邪魔が入り、天文台のシーンではついに体が浮いて、空中浮遊してしまう。
あの辺りのロマンチックな演出はどうだ!愛が昇華して、天使になったのだ!
おっさんのオレですら、
『ぎゅんぎゅん』
しちゃったくらいなので、夢見る乙女なんか
『キュンキュン』
しちゃってキュン死にしてしまうんじゃないだろうか!!
美しく、ロマンチックで、軽妙で、見ていてワクワクしていました!
『秋』で、タッチは一転して、現実的になります。登場人物の衣装も、現実的な色合いになり、トーンは暗くなって、二人の間のすれ違いが描かれます。
彼は夢を軌道修正し、流行りのバンドに入り、成功を収める。彼女はそれが、彼の夢とは違うことを見抜いている。彼女は女優の夢に向かって、大ばくちを打つ。作・演出・出演が自分一人だけの、一人芝居。彼に見て欲しい、アドバイスも欲しいのに、彼は仕事で忙しく、彼女のそばにいない…
『秋』では、あれほど楽しかったミュージカルシーンがまったく流れず、ずっと重苦しい場面が続きます。
一人芝居は大失敗。10人も埋まらなかった客席。席を立つ観客からは、「大根役者」の声。
打ちひしがれ、故郷へと逃げ帰るミア…
そして奇跡のオファー。
『秋』での唯一のミュージカルシーンは、このオーディションの場面、ミアの魂の独唱の場面だけ。
そして〜『冬』。5年後の冬。
実はファーストシーンから、ここに至るまで、映画の随所に、古き良きアメリカ映画を彩ったスターたちの似顔絵が、画面いっぱいに広がります。
最初のミアの部屋には、イングリッド・バーグマン。
セブが最初にピアノを弾いていた店の壁には、チャップリンやモンロー、ボガート。
そして、5年後の冬には、新作映画に主演する、ミア自身の巨大似顔絵ポスターが、撮影所を横切る。
彼女は夢を叶えたのだ。でも…
なぜだろう、なぜハッピーエンドにしなかったんだろう…
夢のような物語だったはずなのに。
夢物語はたいていいつもハッピーエンドなのに。
時間が巻き戻り…
『こうだったら、良かったのに!』
という平行世界が展開して…
物語は終わります。
ラストで『シェルブールの雨傘』を思わない人はいないでしょう。唯一の救いは、セブも夢を実現させていた点。
でも思い返せば、あの『シェルブール』的なラストシーンと、
最後に流れる、夢のようなパラレルワールドこそが、
この映画のキモでした。
楽しかった夢物語は、切ない名画と同じ終わり方をして、幕を閉じました。
あの名画を永遠に覚えているように、われわれはこの映画もまた、覚えていることでしょう。
ミア役のエマ・ストーンが、いじらしくてキュートで、とても魅力的。彼女は美人と言えますか?古くはゴールディー・ホーンとか、今ならキャメロン・ディアスとか、四角い顔で、目が大きい、カエルっぽい顔。
あのファニーフェイスが、この映画の夢のようで、楽しくて、切ない物語に、とてもマッチしていました。
ライアン・ゴズリング、ダンスが下手とかけなしている人がいましたけど、何言ってんの?って思いました。別にダンスを見せる映画じゃないじゃん?ミュージカル=ダンスと歌が完璧じゃないとダメ、なんて誰が決めた?『マイ・フェア・レディ』のレックス・ハリソンなんか、あれは歌か?ほとんどセリフに節がついてるだけ。
それでもみんながあの映画をずっと覚えている。
ライアン・ゴズリングの、あの不機嫌そうな無表情で、決してうまくないダンスが、この映画を親しみやすくしていると思います。肩肘張らず、軽い気持ちで見ながら、そしていつの間にか、映画の世界に引き込まれていく役目を果たしていると思います。
斬新なカメラワークに今風の演出というスパイスを加えながら、あくまで、伝統的な古き良きアメリカ映画のDNAを継承した名作だと思います。
CG、爆発、リアルな出血、内臓突出、をみた後のイガイガ感は一切なく、若いころ、名画を見て、心が洗われて、映画って素敵だなあ、と思った、あの頃の気持ちが蘇りました。
久しぶりに、もう一度見に行きたい、と思えた映画でした。