マイケルとヴィトの関係はそのまま、パチーノとデニーロ。
名作の続編は、前作を上回ることができないが、『ゴッドファーザーPARTⅡ』*1だけは別だ、と言われている。受賞歴を見ても、アカデミー賞作品賞を受賞したPART1の続編が、再び作品賞を受賞した唯一の例だ。
また、ヴィト・コルレオーネの青年時代を演じたロバート・デ・ニーロは助演男優賞だ。前作でヴィトを演じたマーロン・ブランドは主演男優賞を受賞、と、同一人物を違う俳優が演じ、共に受賞する唯一の人物がヴィト・コルレオーネ。
しかしやはり僕はPART1が好きだ。2は映画としては傑作であるが、1のように、人生観を覆すような衝撃は得られなかった。
それがやはり主役であるアル・パチーノ演じるマイケルの弱さだ。彼は父・ヴィトのように偉大になりたいが、父には遠く及ばない。そしてそれを演じるパチーノもまた、ブランドには及ばない。
僕はもちろんパチーノも好きだ。『狼たちの午後』*2や、『ヒート』*3でデニーロと再共演した時の、狂気に満ちた警官役などは大好きだ。しかし本作では、主役でありながら、デニーロの存在感には太刀打ちできなかった。
ヴィトは単なる人殺しではなく、皆からの尊敬を集め、「人間とは、こう振る舞うべきなのだ」という人生の答えを、映画の中で教えているかのようであった。「ゴッドファーザー」を見て人生観が変わったという人は多いと思う。
しかしPART2は、ファミリーのため、ファミリーのため、と言いながら、マイケルには人徳がないため、求心力はない。彼にできることは裏切り者を殺すことだけだ。
疑心暗鬼になったマイケルは、最も忠実なトム・ヘイゲンにすら、疑いの目を向ける。絶大な権力を持ち、父譲りの先見の明はあるが、いかんせん、人徳はない。父・ヴィトなら絶対にしなかったであろう、実の兄を殺すという判断までしてしまう。
マイケルは、ヴィトにより殺された、ファヌッチそのものだ。恐怖政治のみであたりを支配し、誰からも尊敬されず、ただ恐れられていただけの存在。
そして残念ながら、その役を演じるパチーノにも、求心力は感じられない。
それに対し、並行して描かれる青年のヴィトを演じるデニーロは素晴らしい。声のしわがれた質感まで、ブランドのヴィトを再現し、困っているイタリア人には救いの手を差し伸べ、邪魔な人物は排除するヴィトの青年時代を、実に深みある人物として演じている。
貧乏な老婦人の悩みを聞く場面のデニーロの仕草は、PART1の冒頭で葬儀屋の悩みを聞くブランドの仕草と同じだ。しかし完全なコピーではなく、デニーロ独自の味付けもある。
若きヴィトがその先見の明と人徳と行動力で成功を収める物語と、マイケルが父の影を追いながら、徐々に人が離れていく様を描き、マイケルの苦悩をクローズアップしているのだが、皮肉にも、パチーノとデニーロの格の違いを見せつける結果にもなってしまっている。
STORY
1901年、イタリア、コルレオーネ村。ヴィト・アンドリーニ、9歳。父と兄は、この辺りを取り仕切るドン・チッチオを侮辱したとして殺され、母もヴィトの目前で殺される。ヴィトは命からがら、船に飛び乗り、アメリカに渡る。
「コルレオーネ村から来たヴィト・アンドリーニ」という言葉が入国係官に聞き取れず、「ヴィト・コルレオーネ」と登録される。
誰一人、身寄りのいない異国の地で、たった9歳のヴィトの暮らしが始まった…
1958年。ネバダ州に拠点を移しているコルレオーネ・ファミリー。父・ヴィト亡き後、ファミリーを引き継いだマイケルの前には問題が山積みだ。ホテル買収を有利に進めるため大金を払っているギーリー議員からは、イタリア移民を侮辱され、妹のコニーは、夫であるカルロを殺したことでマイケルを憎悪している。そして兄のフレド。人はいいが何もできないフレドは、妻さえコントロールできずにいた。
ファミリーの幹部・フランクはマイケルに、縄張りを荒らしているロサト兄弟の暗殺許可を取り付けようとする。しかしマイケルは、ロサト兄弟のバックについているユダヤ人、ロスとの信頼関係の構築に腐心していた。
ロスの持つキューバの利権は巨大だ。ロスの引退が近く、その利権を引き継ごうと目論んでいるのだ。だからフランクがロサト兄弟を殺すことを許可などできない。
その夜、マイケルとケイの寝室に、マシンガンが何十発も打ち込まれる。ケイが、窓が開いていることを不審に思った一言が、マイケルの命を救った。
黒幕はロス以外にいない。激怒したマイケルは、フランクに、ロサト兄弟と手打ちをするよう命ずる。ロサトと手打ちをしたと見せかけて油断させるつもりだった。
ところがフランクがロサト兄弟と手打ちに行った席で、フランクは暗殺されそうになる。すんでのところで、死を免れるフランク。
青年ヴィトの時代。真面目に働いていたパン屋をクビになるヴィト。その辺りを仕切っているドン・ファヌッチが、強引なやり方で自分の甥をパン屋に就職させたのだ。主人は断腸の思いで、ヴィトをもう雇えなくなったことを告げる。恨み言も言わず、主人に別れを告げるヴィト。
生まれたばかりのソニーが病気になっても、満足に治療も受けさせてやれないヴィト。このままではいけない。
隣のクレメンザという男、愉快な男だが、盗みを働いているようだ。少しずつそれを手伝い、軌道に乗りかけた頃、再びあの男・ファヌッチが現れ、クレメンザ、テシオ、ヴィトの3人で計600ドルの上納金を納めるよう、ヴィトを脅す。
クレメンザとテシオはファヌッチを恐れている。バックに巨大なマフィアがついているからだ。600ドルで済むならすぐ収めよう、という二人。
しかしヴィトは違った。ヴィトは他人を見る目がしっかりしていた。ファヌッチは言われているような人物ではない。マフィアのバックなんかついていない。本人が自分で噂を広めているだけだ。やり方が強引なので、誰からも尊敬を受けていない。友達もいない。
ヴィトはたった一人でファヌッチの家に潜入し、彼の顔面に銃弾を打ち込み、殺害する。
マイケルの時代。ギーリー議員を罠にかけ、ファミリーに逆らえない立場に追いこんだマイケルは、キューバに赴くが、この国の情勢に疑問を持つ。ゲリラたちが、政府軍を制圧するのではないか。彼らは金のためではなく、真に国を思って戦っている…
ロスはそこに気づいていない。キューバ大統領への献金をマイケルに迫るロス。しかも明日の新年パーティ後、マイケルを罠にかけ、殺害を企てている。先手を打ち、今夜、ロスを暗殺するよう指令してある。
ところが、フレドが口を滑らせた話にマイケルは愕然とする。フレドは、ロスの側近と通じていたことを隠していた。
マイケルは激怒する。自分の命を狙っている人間と通じ、隠しているということは、マイケルへの裏切りであり、彼の動向をロス側に密告していたということだ。
さらに悪いことに、事態はマイケルの想像を上回った。ゲリラにより政府は転覆し、大統領は国を逃げ出した。上流階級は袋叩きにあう。マイケルはすんでのところで国外に出る。フレドはマイケルからも逃げ出し、行方を眩ませる。
帰国したマイケル。しかし、ロスが裏で手を回し、マイケルへの公聴会が開かれることになってしまった。かつての殺人や5大ファミリーのボス殺しなど、すべてを否定するマイケル。ギーリー議員がマイケルに手を貸すが、しかし検察側の証人に、あのフランクがいる。
かつての幹部の証言は重い。フランクはロサト兄弟の一件を、マイケルの仕業と勘違いしている。そして証人保護の一環として、軍隊の基地で暮らしている。
さすがのコルレオーネ・ファミリーでも基地にいては手が出せない。
フランクの証言の日。マイケルはイタリアからフランクの兄を呼び寄せ、共に傍聴する。
それが何を意味しているのかは一目瞭然だ。
滅多なことをしゃべると、兄貴の命はないぞ。
突然、証言をひっくり返すフランク。
ファミリーは救われた。
ヴィトの青年時代。ファヌッチ殺しはヴィトの仕業、は公然の秘密だった。ファヌッチがいなくなり、あたりは平和が訪れ、ヴィトは皆の困りごとを常に解決してくれた。絶大な信頼を得る存在になっていくヴィト。
オリーブオイルの輸入会社を作り、裏の仕事の隠れ蓑にするヴィト。さらに、その会社も大きな利益を生んできた。
輸入の仕事のかたわら、故郷のコルレオーネ村に戻るヴィト。両親と兄を殺したドン・チッチオのもとを訪れ、彼を腹を裂き、復讐を果たす。
マイケルの時代。妻のケイとは離婚し、兄のフレドとは絶縁していた。証言を覆したフランクは収監。ロスは各国から入国を拒否され、ついにアメリカに帰国せざるを得ない状況に。
ロスを殺し、フランクは彼の家族の安全を保障する代わりに自殺させた。そしてマイケルは、悩んだ末に、兄のフレドをも殺すのだった。
ヴィトの人徳と行動力で築いた帝国は、音を立てて崩壊しようとしていた。