みなさんこんにちは!お方さまの足まわり講座です。
突然ですがみなさん、街を歩いていると、道にこんなものが落ちているのを、見たことがありませんか?
▼何やら、黒いカタマリ。
▼大小散らばって落ちていることが多い。
▼あるいは、タイル状の床の上に点在する、アスファルトの破片のようなシミ。
これって一体、なんなのでしょう?
靴のソールみたいにも見えますが、歩いてて靴のソールが取れることなんてありえない、もし靴なら、あれを履いていた人はどうなった、って、そう思ってしまいますよね。
「靴屋さんあるある」
靴屋さんで働いていると、まれにですが、とんでもない場面に遭遇することがあります。
その場面とは…
シワひとつない、クロのスーツ、ノリの効いたシャツ、純白のネクタイ。ほぼ完璧な、礼服スタイル。
なのに、足元は…
裸足!!ハダシ!!
たいていの場合、お客さまは、自分の身に何が起こったのかが理解できず…
「く、靴が、ボロボロになって…。なくなってしまった!」
とおっしゃいます。
しかし靴屋さん側としては手慣れたもの。落ち着いてスリッパを差し出し、椅子に腰掛けていただきます。
この状況って、何度も経験しているのですから。
靴底の、加水分解
これは靴底が加水分解を起こし、ボロボロになって、剥がれ落ちてしまったのです。
加水分解とは、化合物が水分と反応して分解反応を起こすことを言います。
この種の問題を引き起こす靴は、ソールがポリウレタン製のものに限ります。革底の靴では決して起こりません。
ポリウレタン製のソールは、長所として、
①発泡ウレタンなので、軽量かつ高クッション
②耐摩耗性に優れており、ソール減りが少ない。
という点が挙げられます。つまり、足が疲れにくく、ソールも減りにくいので、ソール素材としてはたいへん人気があります。
しかし、工場でソールが完成した時点から、すでに分解反応は始まっています。
早くて3年、多くは5年で、劣化が起こります。
ポリウレタン製の靴を、5年も履き続ける人はまれです。ソールの前に、アッパー(甲革)がダメになるので、新しいものに買い換えることが多いでしょう。
でも…
「この靴は、結婚式用」とか言って、長い間、下駄箱の中に眠らせてた靴…
そんな靴を、数年ぶりに履いて、駅に向かうと…
どんなことになるか、だんだん、想像がついてきたのではないでしょうか。
気候と加水分解
日本は高温多湿であるため、加水分解が発生しやすい気候であると言えます。
アメリカやヨーロッパなど比較的乾燥した気候では長く使える靴も、日本では寿命が短くなってしまいます。
ジャカルタ在住のお客様によれば、ジャカルタでは靴がすぐダメになる、とのお話を伺ったことがあります。
加水分解、対策は?
ポリウレタンの加水分解は、防ぐ方法はありません。
その寿命は3年から5年。
せっかく買った靴を無駄にしないためには、
A)まず、使用しましょう!!
使用せずに保管したままだと、加水分解が進みやすくなります。前述のような、結婚式専用にしていた靴を数年ぶりに下駄箱から出す、なんて状況は、加水分解の最悪のケースです。裸足で礼服で、靴屋さんを探して走り回る羽目になります。
B)雨などで濡れた後は手入れをして、風通しの良い場所で乾かしましょう。
エナメルにも起こる加水分解
エナメルの表面を覆う光沢もポリウレタンであり、加水分解を起こします。エナメルの場合は、ボロボロと崩れるのではなく、表面にベタつきが起こり、チリやホコリなどが表面にくっつきやすいという症状になります。
加水分解は、ライニングにも起こります。ライニングとは、靴の内張のことです。内張がボロボロになる現象がそうです。
また、合成皮革の素材にも発生します。
半年〜1年以上、履いてなかった靴を履く前に、必ずすべきこと
半年以上履いていない靴があれば、履く前に必ず
ソールを折り曲げてみましょう!!
加水分解を起こしていれば、割れてきます。少しでもヒビがはいれば、その靴はもうダメです。履いて外出すれば、ソールはボロボロに剥がれ落ち、アッパーだけという、コントのような格好になってしまいます。
以上、加水分解についてまとめてみました。
ポリウレタン製のソールを履く際、エナメルの靴を履く際には、参考にしていただければ幸いです!