初めて、お方さまの家に呼ばれて、夕食をご馳走になった時のことです。
その日のメニューはてっちりでした。
僕が到着したら、テーブルの上には、鍋に入れる前の新鮮なフグの身が、それこそ山のように積み上げられていました。
一家が総出で、僕をもてなそうとしてくれているのが、とてもよくわかりました。
さて、その家には、お方さまの他にも女手は数名います。
いとこのH子。
叔母(小)のI子叔母さん。
そして、大叔母さんと呼ぶにふさわしい、S子叔母さんです。
このうち、このてっちりは、お方さまとH子とI子叔母さんの三人で用意してくれていました。
恐怖のS子叔母さんは仕事があり、僕の訪問前に帰宅予定でしたが、少し遅くなり、僕が到着して5分くらいしてから、帰宅されました。
S子叔母さんは帰宅するなり、
「あら、池田さん、いらっしゃい」
と満面の笑みで僕に挨拶をしてくれました。
そして、料理に厳しいS子叔母さんの、厳しいチェックの目が、用意したてっちりに向けられます…
お方さまも、H子も、I子も、固唾を飲んで、S子の反応を見ているのがわかります…
フグの身の量、野菜その他の切り方や量なども、S子のお気に召したようでした。
ふ〜っ、と、少し、緊張の糸が切れた、その時…
S子の鋭い声がしました。
「もみじおろしは?」
もみじおろしとはいうまでもなく、大根おろしに唐辛子が混じって赤くなった薬味です。僕は別段、好きってわけでは無いんですが…(^◇^;)
「もみじおろしは、この前使ったのが残って…」
桃屋のもみじおろしが残っていると思っていた3名。
が、冷蔵庫の小瓶を開けて見たら、もうほとんど入っていないのだった…
S子の鋭い眼光が、3人の女を睨みつけます。
(怒)女が三人、ガン首揃えて?
(怒)麗子の彼氏が初めて家でてっちり食べにきてくれてんのに?
(怒)もみじおろし忘れるとは?
(激怒)お前ら、どこに目ん玉、つけとるんじゃぁぁいっ?!!
S子の咆哮が家中にとどろきました!!!!
女性三人は、逃げ場を失ったネズミのように、固まって、壁を背にしていました。恐怖のあまり、これ以上、後ろに下がれないのに、それでもなんとか後ろに下がろうと四苦八苦していました!!!
あのー、ボクは別にもみじおろし、ゼッタイないとダメってわけじゃあ…(^◇^;)
という僕の声は全く耳に入らないようで…(^◇^;)
今すぐ買ってこんかぁぁあいっ!!!!
という咆哮に、弾かれたように、家を飛び出るお方さまなのでした…(^◇^;)
後から聞いたのですが、S子叔母さんは、やはり僕がきたのに万全な準備をしていなかったことに腹が立った、と言うてはりました…