北海道マラソン、最大の難所・新川通り。
スタートして約19kmあたりから、往復約13kmにわたって走路となっているこの通り。
木陰が一切なく、真夏に行われる北海道マラソンにおいて、直射日光を浴び続けながら走らねばならないこの通りは、疲れたランナーをさらに苦しめるので、最大の難所となっています。
誰もが、一刻も早く、この通りを走り抜けたい、と願いながら走り続ける区間です。
にも関わらず、かつて、この難所部分を半分以上、走り終えておきながら、くるりと踵を返し、きた道を数キロにわたって逆に走り始めた女性ランナーがいました(^◇^;)
一体なぜ、彼女がそんなことをしたのかというと…
初めての、ご主人さんとのフルマラソン
それは2014年の北海道マラソン。
その女性は、僕の友人の中ではとても有名な存在。仮に、Aさんとしておきましょう。
Aさんはとにかく明るくてイイ人なので、誰からも好かれ、誰からも慕われている人物です。
Aさんは、マラソン大会に個人で参加した経験は何度もあります。でも今回は初めて、ご主人さんと2人で北海道マラソンに参加したのでした。
ご主人さんの方は、あまりフルマラソンの経験は積んでらっしゃらないようで。
Aさんの方は、フルマラソンくらいはサクッと走ってしまわれますが、ご主人さんと2人で走る、と決めてらっしゃったので、スタートからかなりのゆっくりペースで走ってらっしゃいました。
迫る関門時間
ところが…
ご主人さんのペースが、思った以上に上がりません。(^◇^;)
北海道マラソンの制限時間は5時間。
このまま、ご主人と並走していたら、関門アウトになってしまう…。それはもったいない。
そう判断した彼女は、
「アタシ、先に行くね!!」
と、スピードを上げてひとり旅に出ました。
新川通りで単独ラン
それがたぶん、20km地点くらいだったのではないか、と思われます。
北海道マラソンの20km地点、といえば…
有名な、新川通にさしかかったあたりです。
新川通とは、北海道マラソン最大の難所。スタートから19kmを走ってきたランナーの前に立ちはだかる、往復13kmにわたる、日陰のまったくない直線道路。
往復13kmということは、片道約6.5kmで折り返します。
さて、Aさんはご主人さんと別れてこの新川通を飛ばしました。もう制限時間が迫っていたからです。
そして折り返し地点で折り返しました。
往路と復路の間には、約2〜3メートル幅の植え込みがあり、復路を走るランナーはすれ違う往路のランナーの顔を見ることができます。
復路から往路を見たら…
Aさん、復路を軽快に走っていると…
誰かが、往路で倒れている様子が目に飛び込んできました。
走りながら一瞬、目に入っただけですが…。
その姿、着ていたウエアの色…。
「うちの旦那じゃないかしら??」
一瞬の葛藤
Aさんはちらりとそう思いながらも、しばらくの間は走り続けました。
一瞬、目に入っただけ。注意して見たわけではありません。旦那じゃない可能性もあります。
もし旦那だったとして、一体どうすればいいのでしょう?もうこんなに距離も離れてしまっています。何ができるというのでしょう。
ここは北海道。飛行機代、ホテル代、エントリー代を払って走ってる、大好きな北海道マラソン。
できることならゴールしたい。
脳内で、ほんの一瞬、そんなやり取りが交わされました。
が、最後に彼女はこう思いました。
「今、引き返さないと、アタシは一生、後悔する!!」
新川通、愛の逆走!!
彼女は足を止めました。
何百人ものランナーが、暑さで真っ赤になった鬼のような形相で、北から南へと走り抜く中で!!
彼女はたった1人、南から北へ!!
全ランナーとまったく逆の方向へと!!
逆走を始めました!!
おそらく長い北海道マラソンの歴史を紐解いても、新川通を数キロにわたり逆走したランナーは、彼女しかいないのではないでしょうか??!!
そして、折り返し地点でも逆に折り返し!!
往路も、もちろん逆に走って!!
「ごめんねAちゃん」
倒れているランナーのところにたどり着くと…。
やはり、妻のカンは強し!!
倒れていたのは旦那さんだったのでした!!
「ちょっとどうしたの?大丈夫?」
と彼女は旦那さんに声をかけました。
旦那さんは彼女を見て…
「Aちゃん、ごめんね、ごめんね…」
と謝っていたそうです…
人生初の収容バス
旦那さんは、疲労と、軽い熱中症といった、それほど深刻ではない症状だったようで、一安心といったところでした。
もちろん、もう関門時間に間に合うはずもなく…
Aさんは、ご主人と一緒に、生まれて初めて関門アウトになって、収容バスに乗ったのでした…。
エピローグ
その後…
翌日、すっかり元気になったご主人は、ひとあし早く東京に帰らなければなりませんでした。Aさんの方は、友人たちとあと一泊。
不要な荷物はすべてトランクに入れ、ご主人さんに持って帰ってもらうことに。
大きなトランクとともに、ご主人さんはホテルを後にされました。
彼女は1人、ホテルでまったりと過ごしていました。
ご主人さんの飛行機が飛ぶ時間になって…。
彼女はやっと、あることに気づきました。
「アタシのサイフ、旦那のトランクの中だ!!!」
こうして彼女は、びた一文持たない状態で、北海道に取り残されていたのでした(^◇^;)…