暴力、暴力、畳み掛ける暴力
「アウトレイジ」に描かれているヤクザには、任侠とか仁義とかそんなものは一切ありません。
ただ権力とカネを得るためだけの暴力。
「親分・子分」の関係も、「兄弟の盃」もあってないようなもの。
親分は子分を陥れ、そのために動いたコマとしての子分も始末する。
子分は親分に従いながらも、いよいよとなれば容赦なく殺す。
「ゴッドファーザー」などで見てきた、実際の血縁ではない親子関係の日本のヤクザなら、確かにあり得るのではと思えるような抗争を描いています。
開き直った北野映画
北野監督の作品は特にヨーロッパでの評価が高いものの、たびたび描かれる暴力シーンについてはやはり批判的な声もよく聞かれていました。
北野作品が描く暴力シーンは、見るものが実際に痛いと感じるほど、その描き方がうまいです。だからこそ暴力シーンにアレルギーにある観客にはインパクトが強すぎ拒絶反応が起こるのもわかる気がします。
これまでは、描く暴力にも必ずどこかに理由があった北野作品。
それは愛するものを守るためであったり、若い日の過ちであったり。
しかし本作はもはや、そんなあらゆるエクスキューズを排し、暴力のための暴力を徹底的に描ききりました。
もはや理由なんてどうでもよく、狂人のごとく対立相手を殺しまくる。
「うるせえバカヤロー!!」「なんだとコノヤロー!!」
セリフはほとんどこの2フレーズを、
怒鳴って怒鳴って、怒鳴りあっているだけの、徹底した緊張感。
いつ、誰が、なぜ殺されるか、一瞬たりとも目が離せない緊張感が画面を覆っています。
笑いの場面も実は残酷
そんな緊張の連続の中で、乾いた笑いを提供するのが、石橋蓮司演じる村瀬組組長と、架空の国「クバナン共和国」の黒人大使。
村瀬組は巨大暴力団・山王会の傘下ではない弱小暴力団のため、その傘下の池元組と兄弟の契りを交わし、山王会への加入を企てています。
部下がしでかした後始末に追われ晒す醜態。石橋蓮司があのコワモテを顔芸のように歪ませながら笑いを誘います。歯医者でヤクザたちに口の中を治療器具でぐちゃぐちゃに破壊されたり、最後はサウナで全裸のまま射殺されます。
クバナン共和国の黒人大使は治外法権を利用して麻薬の取引をやっていたところをヤクザたちに脅され、いつしか大使館がカジノの会場となり、最後は殺した死体を埋める仕事まで押し付けられます。
村瀬組はヤクザとしては弱小。
クバナン共和国も微々たる弱小国。
「弱いもの」に対する愛情などかけらもなく、徹底的に強いものに踏み潰される様子を、残酷なまでにコミカルに描いています。
殴った弱者に殺される強者
水野(椎名桔平)
椎名桔平演じる水野は、弟分の加瀬亮演じる石原を殴りつけます。村瀬組の縄張りを受け継いだにもかかわらず、村瀬組に上納金を下ろしていた売人を呼んでいなかったという理由で。
水野はやがて、凄惨な最後を遂げます。それは敵に寝返った石原が水野の居場所を教えたからでした。水野が最後に聞いた言葉は、「石原がよろしくってよ」でした。
池元(國村隼)
國村隼演じる池元組組長は、さんざん、ビートたけし演じる大友組組長を使って村瀬組との抗争を演出しておきながら、大友が村瀬を殺害後、大友を破門すると、怒った大友により殺されます。
大友(ビートたけし)
その大友も、中野英雄演じる木村が謝罪に訪れた際、カッターナイフで木村の顔を切りつけて一生の傷を負わせます。ラストで刑務所に服役した大友は、先に服役していた木村に刺されて殺されます。(「アウトレイジ ビヨンド」で、実は生きていたわけですが)
関内(北村総一朗)
全てを裏で牛耳っていた、北村総一朗演じる山王会会長・関内。なんども若頭の三浦友和演じる加藤の頭を引っ叩きます。「お前はそんなこともわからないのか?」と。
大友組を壊滅させた、杉本哲太演じる池元組若頭・小沢に、2代目池元組組長を約束しておきながら、加藤に小沢を殺させる関内。加藤は小沢を射殺した後、振り返って関内も殺します。
人間性の裏に潜む、残酷なカタルシス
昨日まで弱かった側が、強かった側を殺すことで得られる残酷なカタルシス。
この、そら恐ろしいまでに単純なカタルシスこそが、「アウトレイジ」の本質です。
愛も仁義も何もない。
弱かった側が強かった側を殺す、単純なカタルシス。
高級スーツこそ身にまとっていますが、
高級車こそ乗り回していますが、
「アウトレイジ」に描かれているのは、原始人と同じレベルのカタルシスを求めているわれわれなのでした。
STORY
山王会VS村瀬組
山王会会長・関内(北村総一朗)は若頭・加藤(三浦友和)の口から、池元(國村隼)が山王会傘下ではない村瀬(石橋蓮司)組と兄弟の契りを交わしたことへの不満をぶちまける。
山王会の縄張りで村瀬組が麻薬を扱っているのではないかと疑っている、というわけだ。
困った池元は弟分の大友(ビートたけし)に村瀬組との軽いトラブルを依頼し、昵懇の仲ではないことを演出しようとする。
村瀬組のぼったくりバーにわざと引っかかり、100万円を請求される中年サラリーマン。震え上がったふりをして、「会社に支払ってもらいます」とポン引きを事務所に引き入れると、そこは大友組事務所。中年サラリーマンは、ヤクザに見えない大友組構成員・岡崎だった。
今度は逆にポン引きが震え上がる。水野(椎名桔平)が100万の束をポン引きに渡す。ちょっと脅すとポン引きは逃げ帰る。
それを知った村瀬は池元に電話を入れ、ポン引きに指を詰めさせ、それを持って若頭・木村(中野英雄)に謝罪に行かせる。
大友や水野は、木村を許すつもりなどない。木村の指を要求し、カッターナイフで指を切り落とせと迫る。
激しく侮辱された木村は激昂するが、大友がカッターナイフで木村の顔をX印状に切りつけ、半殺しにして追い返す。
この事態に村瀬が池元組へ直接謝罪に訪れると、池元は大友が勝手にやったことだと手のひらを返す。
泥沼化する事態
例のぼったくりバーを再訪する岡崎。前回は100万円を要求してきた店が、今回はタダであることをネタに、さんざん店側を愚弄する。
その夜、岡崎は村瀬組に拉致され、コンクリート塊と鉄パイプで撲殺され、大友組事務所前に捨てられる。
大友組はぼったくりバー従業員をリンチし、例のポン引きが青森へ逃げ帰ろうとしている情報を掴むと、新幹線の中でポン引きを射殺する。
かなり拡大してきた事態を収拾するため、池元と村瀬が2人で関内のもとを訪れ、謝罪し抗争終結を宣言する。2人の前では甘い顔を見せていた関内。
しかし村瀬が帰ったあと、加藤の口から、チンピラ1人殺しただけで終わったと思うな、と釘を指す。
またも困った池元は大友を頼る。大友は仕方なく、歯医者で治療中の村瀬を襲い、治療器具で村瀬の口を破壊する。
大怪我を負った村瀬は再度関内のもとを訪れるが、関内は不在。加藤は村瀬に、形式だけの引退を勧告。縄張りを池元に預け、麻薬の上がりの上納を約束する。
腹の虫が収まらない木村ほか、村瀬組構成員は大友を襲うが返り討ちにあう。木村は命からがら逃走。
村瀬の引退
警察のマル暴・片岡(小日向文世)は学生時代、大友とはボクシング部で先輩・後輩の間柄。片岡の暗躍でそれぞれの殺人も暴力団抗争とはならず穏便に処理されている。
村瀬の縄張りは池元組のものとなった。そこで麻薬を売っていた売人からの情報で、クバナン共和国大使館で麻薬の売買が行われていることを知る大友組。
クバナン国大使をハニートラップにかけ、おまけに女が死んでいるという状況を作り上げる大友組。大使は大友組に逆らえなくなる。
小さな大使館から、大きな倉庫へ大使館を移築させ、そこでカジノを経営する大友組。カジノは大友組のインテリヤクザ・石原(加瀬亮)が取り仕切ることとなった。
池元がカジノに入り浸るようになった。他の客が萎縮し、商売に影響がではじめた。
いっぽうクバナン大使は上がりの20%では割に合わないと言い始める。大友組は大使に30%支払っていることになっている。石原がピンハネしているのだった。
石原は大使を巨大な蛇がいる浴槽に閉じ込め、20%の条件を飲ませる。が、石原の部下にもう1人、英語ができる人間がいて、石原のピンハネに気づくのであった。
村瀬組時代からの麻薬の上がりが芳しくない。どうやら別の販売ルートができたようだった。
中華料理屋で麻薬の販売が行われていると知った水野たちは、料理屋の親父の耳を菜箸で突き刺し、右手の指を切り落として誰から麻薬を卸しているか聞き出す。
卸元は村瀬だった。
村瀬は引退したと言って、商売を続けていた。
村瀬殺害と大友破門
ついに池元は村瀬の殺害を大友に指示。
仕方なく大友は自ら村瀬のいるサウナに乗り込み、手下もろとも、村瀬を射殺する。
関内の指示で、池元は自分の兄弟分を殺した大友を破門する。
大友は激怒する。池元の指示で村瀬を殺したにもかかわらず破門されるなど納得がいかない。
自らの指を詰め、関内の元へ向かう大友。
例によって関内は、大友に甘い言葉を囁く。
もう池元の時代じゃない。お前が仕切っていけ。池元を生かそうが殺そうが俺の知ったことじゃない。
池元殺害
破門しておいてカジノ通いはやめられない池元を大友は拉致し、あっさりと殺害する。池元のボディガード役のはずの小沢も、関内から池元を継ぐよう囁かれているため、親分を助けようとはしなかった。
池元の死体はクバナン国大使のクルマで郊外へ運び、大使自ら穴を掘って埋めるよう石原が指示。帰りの足がない大使をほおって走り去る。
池元が死んだいま、関内は大友組の壊滅を加藤に指示。加藤は密かにマル暴の片岡と連絡を取る。
大友組壊滅
何者かに殺される大友の部下たち。
大友は片岡と相談する。片岡は、関内が裏で糸を引いていると大友に助言する。池元の後任を任せるから池元を殺せと、大友にも小沢にも言っているはずだ、と。
自分の甘さを思い知る大友。
しかしさらに裏があるのだった。大友との会合を終えた片岡はまっすぐ加藤の待つクルマへ。
あの一室に大友組構成員が集結していると加藤に告げる片岡。
加藤は手榴弾を部屋に投げ込み、大友組の一掃を図る。
運よく大友1人が難を逃れるが、組事務所に電話しても誰も出ない。事務所にいた連中も全員、小沢の手で殺されているのだった。
石原は、自分のピンハネを見抜いた英語ができる部下を殺し、関内へと寝返った。
水野は事前に大友から逃げるように指示されていたが、石原の裏切りにより潜伏場所がばれ、拉致される。
クルマの座席に固定されたまま、首に縄を結ばれる水野。縄の端は道路脇の鉄柱に結ばれ、クルマは速度を上げる。
水野の死体は、ほとんど首がもげていた。
ただ1人生き残った大友は、片岡の説得で投降する。
最後に笑う者
大友組壊滅を関内に報告する小沢。関内は小沢を歓迎しながら、加藤に小沢を射殺させる。
小沢の死を楽しそうに見やる関内。
が、加藤はその直後、別の拳銃を抜き、関内も殺す。
その銃を死んだ小沢に持たせ、小沢が関内を殺したと装う。
刑務所の中でぼんやりとしている大友の横に座った男は、顔にX状に傷があった。木村だ。
木村は五寸釘を大友に二度、突き刺す。
山王会会長におさまった加藤の元に、片岡が挨拶に来る。大友が、刑務所で木村に殺されたと報告する。
その横には、山王会の金庫番となった石原が座っている。
片岡も出世し、次の担当者を加藤に紹介するのだった。