1本目・「ブラックアウト2022」はこちら。
2本目・「2036:ネクサス・ドーン」はこちら。
「2048:ノーウェア・トゥ・ラン」本編はこちら。
サッパーの物語
苦しみの理由
ショートムービー3本目は2048年、つまり映画本編の1年前の物語です。
主人公は大柄なレプリカントであるサッパー。彼は1本目の「ブラックアウト」において、一瞬ですがモニターに映し出される形ですでに登場済みです。
公衆トイレの中で、彼は激しく苦しんでいますが、なぜ苦しんでいるかについての説明は一切、ありません。
ネクサス8型のレプリカントは、6型と違い、人間と同等の寿命があるはずです。だから寿命が尽きかけているとは考えられません。
①何かの病気なのか?そもそもレプリカントは病気になるのか?
②「故障」とでも呼ぶべき状態なのか?
③彼はイギーなどとともに、2022年に「大停電」を起こし、データ保管所を爆破した実行犯。単に、追われる身としての緊張感からくる苦しみなのか?
もし①か②の状態なのであれば、この「苦しみ」は映画本編につながる伏線なのかもしれません。
サッパーの本「権力と栄光」
サッパーがアイラのために持ってきたペイパーバックは「権力と栄光」というミステリ小説です。
権力と栄光 グレアムグリーンセレクション ハヤカワepi文庫
- 作者: グレアム・グリーン,齋藤数衛
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2004/09/08
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 7回
- この商品を含むブログ (5件) を見る
作者はグレアム・グリーン。
映画「第三の男」の原作を書いた人です。
僕は未読ですが、ウィキペディアによれば、
メキシコ革命の最中、政府によってカトリック教会は弾圧されていた。そうした状況の中酒に溺れ、メキシコ人女性をはらませた神父は警察当局に追跡され逃亡を続ける。苛立ちを強めた中尉は村人を人質に取り、神父を誘い出そうとする。
という物語だそうです。逃亡者である自分を神父と重ね合わせていることは言うまでもありません。
グレアム・グリーンの代表作、と言われている作品のようです。要チェックですね。
心やさしき「軍用レプリカント」
2022年のテロ事件の実行犯である彼。登録データは爆破で抹消したはずですが、警察の厄介になったりはできません。VKテストなどで調べられればレプリカントだと知られてしまいます。
妙に絡んでくるチンピラも全く相手にしません。
この街に来た理由は2つ。
①友人である少女・アイラに本をプレゼントする。
サッパーは過去にもなんども彼女に本をプレゼントしている様子です。貧しい彼女に少しでも学びの機会を与えてあげているのでしょう。
②「食用の生物」を売買。
「ヒル」のような生物を、怪しい店で売買しています。サッパーは「栄養がある」と言っているので食用で、本物の生物なのだと思われます。
おそらくサッパーは自宅でこの生物を養殖していると思われます。映画本編で、おそらく彼の家にガサ入れに入られた際、そのことが判明すると思われます。
一瞬、目を合わせる謎の男
雑踏の中で一瞬だけ目を合わせながら、他人のように通り過ぎる謎の男がいます。ゴーグルを頭にかけています。
彼と同じく、テロに加担した脱走レプリカントの1人でしょうか。
アイラ母娘を襲ったチンピラの目的
サッパーが店から出ると、冒頭の4人のチンピラが、アイラとその母に暴行を加えようとしています。
なぜよりによって、どこにでもいそうなアイラ母娘を襲うのでしょう?
チンピラの1人が言います、「お前らに用がある」と。
貧しい母娘に用などあるはずもありません。あるとすれば、それはサッパーをおびき出すエサとしての役割しか考えられず。
チンピラ4人は何者かに雇われ、サッパーがレプリカントかどうかを確かめるべく、交友関係があるこの母娘を襲ったのでしょう。
27秒で4人を殺害
警官が脇を通ると目を伏せるほど、注目を浴びぬよう暮らして来たサッパーが、か弱い母娘をいたぶる4人の暴漢どもを見て激怒で我を忘れてしまいます。
最初の男に手をかけてから、4人目の首をへし折るまでにかかった時間はわずか27秒28。
悲しきレプリカント
命を助けてもらったはずのアイラでしたが、恩人を見つめる目に浮かんでいた色は「怯え」。
優しく、本を持って来てくれるだけのオジサンだと思っていたサッパーが、一瞬で4人の男を殺す殺人マシーンだった…。
そのことを知ってしまったアイラは、もう2度と、あの優しい目で自分を見てくれることはないだろう、とサッパーは悟ります。
彼にできることはただ1つ。早くそこから立ち去り、2度と現れないこと。
謎の傍観者
一部始終を見ていた男がいました。偶然、近くで食事をしていただけのような男。
男は、慌てたサッパーが先ほどの店で交わした売買契約書を落としたのを見て、それを拾い上げます。
そして電話。
「あんたらが探しているレプリカントを見つけた。住所もわかる」
男は情報屋でしょう。電話は間違いなくブレードランナー本部。
チンピラ4人をけしかけたのもおそらくこの男。
ライアン・ゴズリング演じる新しいブレードランナーがサッパーの家に出向くのは、この電話を受けてのことでしょう。
ちょっと嬉しいポイント
どうでもいいことですが、この男が電話をしている方法が、ケータイ電話ではなく電話ボックスからである、という点に注目しましょう。
前作「ブレードランナー」が制作されたのは1982年、ケータイ電話などまだ影も形も無い時代。
前作でデッカードがレイチェルに電話をするシーンで、デッカードは公衆電話から電話しています。受話器のない、テレビ電話ですが。
現在の状況を考えれば、2048年に公衆電話が存在しているとは考えにくいですが、前作の持つ世界観を踏襲しているためか、情報屋は電話ボックス(ブース)から電話をしています。
こんな些細なシーンでも、前作の世界観を損なわないようにしているスタッフさんたちの心意気が感じられますね。
筆者の予想:「ブレードランナー2049」にはケータイ電話が存在しない?
前作の舞台は2019年で、ケータイ電話が存在していませんでした。
その世界観を踏襲している新作「ブレードランナー2049」にも、ケータイ電話は登場しないのではないか、と予想しています。
空飛ぶ自動車「スピナー」はあるが、ケータイ電話は存在しない時間軸。
そんな時間軸上の物語、という解釈でスタッフは作品作りを進めていったのではないでしょうか?
明日の公開が楽しみです!!
STORY
2048年、ロサンゼルス。
公衆トイレのような場所で苦しむ大柄の男。「ブラックアウト2022」に一瞬だけ映った、脱走レプリカント"サッパー"だ。
なんとか落ち着きを取り戻した彼は、屋外に出る。激しい異人種たちの喧騒、ネオンサイン。
意味もなく絡んでくる4人のチンピラも相手にせず、静かに移動するサッパー。
露店が立ち並ぶ雑踏に歩を進め、アイラという少女に声をかける。アイラとその母親とはなじみであるようだ。
アイラに「権力と栄光」という本をプレゼントするサッパー。「追われる司祭が人間である意味を問う物語」。まるで彼自身の人生を本に投影しているかのようだ。
少女と話しながらも、警官の姿を見かけると目を伏せるサッパー。
その後、彼は怪しい店舗に入っていく。店内では「血液」や「小型機械」など、なんでも取引材料になっている。
サッパーが持って来たのは小瓶に入った小さな生物。「栄養がある」と言っているので食用だろうか。食糧不足は未だに深刻なようだ。
不本意な額ながら小金を稼いだサッパーだが…。
店を出ると、アイラの母親の叫び声が!!
「娘を離して!!」
さっき絡んで来た4人組のチンピラだ!!
「お前らに用がある」
チンピラの1人が言っている。この一言から、チンピラは何者かに雇われ母娘に嫌がらせをしていると見える。
激しく抵抗する母と娘を目にしたサッパーは怒りに燃え冷静さを失い、チンピラに掴みかかると…
「軍用」のレプリカントである彼は、相手の頸骨を降り、極太チェーンを巻いた拳で顔面を破壊し、4メートル以上放り投げ、あっという間に4名を殺害する。
ハッと我に返ったサッパーが見たものは…。
怪物のような自分を、恐怖に怯えた目で見つめるアイラの姿だった。
サッパーは慌ててカバンを拾い上げ立ち去る。ほんの一瞬、振り返る姿が悲しい。もう、アイラには2度と会えないのだ…。
慌てていた彼は、カバンの中身を道に落としてしまう。
先ほどからずっと成り行きを見つめていた男が、そっとその落としものを拾い、電話をかけに公衆電話へ。男は間違いなく、ブレードランナーの情報屋だ。
その男。チンピラを母娘にけしかけた男は、受話器に向かってこう言った。
「あんたらが探しているレプリカントを見つけた」