酒で破滅する人たち
ここ数日、酒癖の悪さで破滅の道を突き進んでいる人たちを見かけますね。
気は優しくて力持ち、だと思っていたお相撲さんが、後輩の頭部をビール瓶で殴打し、頭蓋骨を損傷させる。まだ正式な処分は下されていませんが、この一件が彼の全人生を否定していくのは間違いないでしょう。
まさか、その酒席に着いたとき、自分の人生が破滅するなんて、お相撲さんは考えてみいなかったでしょう。
また、札幌でタクシー内で大暴れした弁護士も酔っていたとのこと。
報道では実名は伏せられていますが、ネットでググればすぐに本名や顔写真まで出てきました。
操車中の運転手を背後から、衝立が破壊されるまで蹴り続けるあの異常な行動は見ているだけでゾッとします。映画なら「サイコ野郎」ですね。
下戸と酒癖
われわれ下戸にとって、酒癖が悪い、と言う状態は理解できないものです。
酒が飲めないため、酒癖に良いも悪いもなく、ただ飲めないだけ。
もし、酒席に愚かな人物がいて、下戸に強引に酒を飲ませた場合、われわれはただ酔い潰れて沈没するだけです。心臓は早鐘のように打ち、顔はパンパンに腫れ上がり熱を帯び、脳内はぐるぐる回って立つことができず、ただ、倒れるだけ。
だから飲める人の中で、酔って楽しくなれる人と、人格が変わって手に負えなくなる人がいる、と言うのが理解できません。
酒席って、酒が飲めなくても、楽しい場合がほとんどです。酔って開放的になった人たちの間にいると、酒で酔えなくても、雰囲気に酔うことができ、下戸でも楽しく過ごすことができます。
しかしこの、「酒癖が悪い」と言う人物がいれば話は別。
それは下戸じゃなくても同じだと思います。
僕が経験した、最悪の酒癖の人
前職で経験した、最も酒癖が悪い人のお話をしましょう。
極めて有能な経理部長
その人は東京本社の経理部長でした。
その人が突然、大阪支社に異動になり、大阪支社の経理部長になりました。
東京でも、社長の腹心とも言える存在で、数字に強く、彼のアドバイスに社長も常に耳を傾けていた、極めて有能な人物、と聞いていました。
とにかく数字に強く、なんでも数字で判断する人でした。
大阪最大の取引先について、今後の営業戦略を考えていたときも、
「取引額は〇〇億円だね?つまり東京で言うと、◇◇百貨店と同じか。じゃああの程度の付き合いをすれば良いんだ」
と言うような発言をする人物でした。
四角い眼鏡をかけて、金額の大小で世の中を判断するタイプ。
彼はそんな冷徹な人物でした。
…。酒を、飲まなければ。
地獄の慰安旅行
彼が赴任して半年が過ぎたころ、会社で慰安旅行がありました。
バスを借り切って、大阪から浜名湖までのバス旅行。
バスに持ち込んだビールを浴びるように飲んでいた彼は、途中から完全に酩酊状態でした。
途中でどこかの工場見学をしたときも、完全に目がイッてたのを覚えています…。
やがてホテルに到着。
大広間みたいなところで夕食会が開かれました。
支社長、社長にまでクダを巻く!!
経理部長はもう大騒ぎ!!
大阪支社長であろうが誰だろうが、絡んで絡んでもう手がつけられない状態でした!!
さらに、サプライズがありまして、
当時の東京の本社社長だった人物が義理堅い人で、わざわざ静岡まで、大阪メンバーに会いにきてくれたのです!!
社長の登場に、ほんのしばらくはおとなしかった経理部長も…。
20分もすれば、社長にまで絡み出しました!!
せっかくの大阪の慰安旅行、と抑えてくれていた社長も最後には、
「てめえ!!いい加減にしろ!!」
とブチぎれてしまうほど!!
こうして、無茶苦茶な晩餐会は終わり…。
全員、床につきました…。
泥酔部長の信じられない行動…。
(ここからは、支社長に聞いた話です)
草木も眠る丑三つ時…。
突然、支社長の部屋の電話がなりました。
熟睡していた支社長でしたが、何度目かのベルで受話器をつかみました。
「もしもし〜?」
「あ、お休みのところ誠に申し訳ございません。フロントでございます」
「どうしましたか?」
「実は…。XX様、と言う方は、支社長様のところの方ではないでしょうか?」
「はい、うちの経理部長ですが…」
「そのXX様が、当ホテルから約5km離れた△△ホテルで暴れているらしく…。支社長様、誠に申し訳ございませんが、お迎えに行ってはいただけないでしょうか?」
もちろん支社長は飛び起き、タクシーに乗って△△ホテルまで、経理部長を迎えに行ったのでした…。
ことの詳細
翌朝…。
朝食の席で、われわれはその話を聞かされました。
経理部長はまだ酔いがさめていない顔をしてその場にいました。
詳しくはこう言うことのようです…。
ベロベロに酔った経理部長は、社長に怒られてバツが悪くなり、浴衣のままホテルの外に飛び出しました。
湖のほとりに佇むホテル。木々に囲まれたそのホテルの周囲を、彼はあてもなく歩き続けました。
どんどん、どんどん、歩き続けました。
歩いていたら、帰り着けるだろう、と思ってたらしいです。
すると、木々の間から明かりが見えてきました。
ホテルに帰った…。疲れたし寝よう…。
経理部長はそう思い、フロントに、自分の名前を告げて鍵をよこせと言ったそうです。
いっぽう、そう言われたフロント係は…。
どう見ても、自分のホテルのものではない浴衣を着た酩酊状態の人物から鍵をよこせと言われ、かなり戸惑ったことでしょう。
あいにく、浴衣にはホテルの名前は入っていませんでした。
が、彼が履いていたスリッパ。
スリッパに、彼がやって来たホテルの名前が入っていました。
5km先にあるホテルの名前が。
なんとか酩酊オヤジから彼の名前を聞き出し、スリッパにあったホテルに電話、泊まり客にXXなる人物はいないか、と照合したとのことでした…。
深夜の湖のほとりの林道を、泥酔しながら5km歩き、違うホテルにたどり着く…。
こいつ、アホや…。一歩まちがうと、死んでたかもしれんで…。
と心の中で思っている僕に、酒臭い息を吐きかけながら経理部長は言いました。
経理部長のサイコな頼みごと
「ところで池田くん、ちょっと大浴場まで行って来てくれ」
「え?どうしてですか?」
「実は、外を出歩く前に、僕は大浴場にはいってたんだよ」
「ああ、なるほど」
「で、間違って隣のホテルに行っちゃったんだけどね」
「(「隣」って…。5km向こうを「隣」と言うか?)はいはい」
「で、支社長にタクシーに乗せられた時、気づいたんだ」
「?何に気づかれましたか?」
「パンツ、はいてないんだよ」
「…。え?」
「大浴場で風呂に入って、パンツ、履かずに浴衣を着たみたいなんだ」
「…。で?」
「だから。大浴場の脱衣かごにパンツが一枚、残っているはずだから。取ってきて。あれしか持ってきてないんだ」
イヤだ!!なんでオレがオッサンのパンツを取りに行かねばならないんだ!!
と激しく抵抗しましたが、最終的には支社長の、
「池田くん。行ってきてよ。オレなんか、深夜の2時半にコイツの身柄を引き取りに行ったんだ。パンツくらい何だよ」
こうして僕は、オッサンが昨夜脱ぎ捨てたBVDの白いパンツを取りに、大浴場に向かいました。
確かにそこにありました。
犬のウンチを回収するときと同じ方法で、コンビニ袋を手袋のようにはめ、パンツをつかみ、袋を逆さにして、その汚物を回収しました。
そのとき、僕は確信しました。
東京で有能なはずの経理部長が、なぜ大阪に異動になったか。その理由を…。