昨日放送された「アンビリーバボー」の内容は、ネット社会に潜む落とし穴を浮き彫りにした、大変興味深い内容でした。
何しろ、大手口コミサイトで、「ロンドンで第1位」とランキングされたレストランが、実は存在すらしていなかった、というのですから。
全ては1人の男性が、存在しないレストランを口コミサイトに登録し、友人たちに協力を仰ぎ、ウソの口コミを書いてもらった結果…。
なんと、たった半年でロンドンNo. 1のレストランとの称号を手にしてしまったのですから!!
存在しないレストランがNo. 1…。
どういうことなのか、見ていきましょう!!
始まりは、フリーライターのこずかい稼ぎ
ロンドンの中でも高級住宅街・ダリッジという場所でその問題は発生しました。
首謀者の名前はウーバー・バトラー26歳。フリーのライターだそうです。
2年前、彼はライター向けのバイトとして、口コミサイトに嘘の投稿をする、という仕事をします。
レストランの口コミサイトに、店に行きもせず、適当に良い評価の口コミを投稿するだけで、1件につき1500円の報酬がもらえるというこの仕事。
1週間経つと、彼が口コミを書いた店はランクが上がり、また、彼の口コミそのものが「役に立った」と評価されていました。
バトラーはこの経験から、インターネット上に蔓延するウソの情報に世間が翻弄されていることに興味を持った、とのことでした。
実在しないウソのレストランをでっち上げるというイタズラを思いつく
世界最大の口コミサイトにおいて、ランキングの出し方は企業秘密だそうです。
ただし、最大のポイントはやはり「口コミ」。
口コミの数、
評価、
投稿された時期、
この三つの要素を元に計算され、ランキングが決まるびえのだそうです。。
2017年5月 準備開始
店の名前=「ダリッジの小屋」(ロンドンのダリッジにバトラーさんの自宅があったから)
連絡先=プリペイドカード式携帯電話(身元などが特定されないように)
住所=通りの名前だけを公開(詳細な住所を乗せるとレストランがないことがすぐにわかる)
レストランの外観写真=ネットから適当に拾ってきたレストランの写真
そして、最も大事な
料理の写真は…。
プロカメラマンの友人と共に、フェイクなレストランにふさわしい、フェイクな料理を撮影しました!!
・ハムエッグ
皿の3分の2程度が映った料理写真。パセリ、目玉焼き、目玉焼きの下にハムが写っているように見え、パッと見ただけでは美味しそうなハムエッグ写真ですが…。
実はハムの部分は人間のカカトで。
カカトを全部写さず、部分的に撮影、ハムのように見せていたのでした。
・ホタテのソテー
ちょうどホタテくらいの大きさの、トイレの漂白剤。それの側面に食紅をつけ、ハチミツをかけ、ホタテのように見せていました。
事情を知っていればめちゃくちゃな料理写真ですが、プロのカメラマンが、それっぽく撮影すると、どれも美味しそうな写真に見えなくもなく。
これらの情報を大手口コミサイトに送ると…。
数日後。
口コミサイトから、
レストランの申請は承認されました
との返事が。
2017年5月5日
「ダリッジの小屋」が口コミサイトに乗ります。ランキングは、ロンドンの中のレストラン18,149店舗中、18,149位。つまり最下位。
家族、友人に口コミを依頼。
バトラーは存在しないレストランについて、3つの基本コンセプトを作り、それに沿ったウソの口コミを書いてくれ、と友人たちに依頼しました。
コンセプト①外で食事ができる
バトラーいわく、
人々がレストランに求めているものとは、味ではなく雰囲気。
家庭的でオープンテラスのレストランであると決めました
コンセプト②気分に合わせたメニュー
ユニークな店ほど人気がある
客の気分に合わせて決めるメニュー。
「欲望」「共感」「期待」「愛」など、その時の気分でメニューを選んでもらう、というシステムにしました
コンセプト③完全予約制
人々は予約の取れない店が大好き。ある種の秘密感が必要だと感じました
以上のコンセプトを協力者に伝え、友人たちはこれに沿ってウソの口コミをどんどん投稿していきました。
2週間後
18,149位→10,000位
1ヵ月半後
18,149位→10,000位→1,456位
1ヵ月半が過ぎる頃、実際に予約依頼の電話がかかり始めました。もちろんバトラーは全てに「8週間先まで予約がいっぱいです」と言って断り続けました。
2ヵ月後
電話だけでなくメールでも予約の依頼が来始める
3ヵ月後
18,149位→10,000位→1,456位→250位
予想外の出来事が!!
・ニュージーランドの航空会社から、機内映像で流す取材の依頼
・地方議会から新しく開発するエリアに出店しないかとオファー
5ヵ月後
18,149位→10,000位→1,456位→250位→147位
怖いと思う一方で、ここまで来たら1位になりたいと思う気持ちが芽生えて来たバトラー。
予約依頼の電話の数などから、いよいよこの試みも終盤に差し掛かって来たことを悟ったバトラー。
念願の1位を獲得するために…。
フェイスブックの友達に片っ端から連絡し、ウソ口コミの依頼をすることに1日の大半を費やします!!
そして…。
6ヵ月後
18,149位→10,000位→1,456位→250位→147位→1位
口コミの数は96件、他の店と比較すると多いとは言えないものの、投稿時期や星の数などから総合的に判断され、ついに1位に躍り出ました!!
1位になってから、携帯電話が5時間以上なりっぱなしで!!
6週間、8週間先まで予約でいっぱい、と断り続けるバトラー。いよいよ自体は手に負えなくなって来ました。
・ひっそりサイトを閉じるか
・ウソだと世間に告白するか
二者択一に迫られたバトラーは、とんでも無いことを思いつきます!!
ウソのレストランを1日だけ実際にオープン
今まで予約の電話を入れて来た中から3組の客に電話をかけ、実際に予約を入れました!!
そして雑草が生い茂る自宅の庭を、客が満足できるスペースに変身させねばならず。
・隣人から大きな屋外ヒーターを借りる
・屋上にもテーブル席を用意
など、オープンテラスのレストランにふさわしい外観を準備。
料理は…。
なんと、スーパーで冷凍食品を購入(16人前で4500円分)
ただし、トリュフだけ高価なものを購入。
ロンドン1位という先入観で、冷凍食品を美味しいと思うのか?
BGM
音楽DJには、レンジのチンに似た音を多用した音楽を依頼
ラザニアをチンする時の音をごまかすため
そのほか
サクラも8名スタンバイ
入場時の演出
客とは店から50メートル離れた場所で待ち合わせて、全員に目隠しをして、店まで連れて行きました。
店とは自分の家、自分の家を知られたくないという理由もありましたし、
目隠しでお客さんが興奮するという演出意図もあったとのこと。
食事をした3組の客は、すべてが高評価。
やっと予約が取れたお客さんは、まさか市販の冷凍食品に、ただトリュフをかけただけという食べ物を食べさせられているとは思いもしていません。
告白
その3週間後、バトラー本人が
「大手グルメサイトで1位のレストランを作った」
と大するニュースを書き、ニュースサイトに発表します。
驚いたのは、ロンドン市民がこの問題を意外に前向きに受け止めている様子であることでした。
「遅かれ早かれ、誰かが同様のことをやっただろう」
「口コミはでっち上げられるということを証明するためにやったのなら、正しいことをした」
「耳にすることを全部信じるな、という子供達への教訓」
「人の気持ちも傷つけたのではないか」
朝の情報番組で、司会者から嫌悪感丸出しで責められてもヘラヘラしているバトラー氏には、僕はシンパシーは湧きませんでした。
ネットの情報を鵜呑みにしてはいけない
本物を見抜く力が必要なんだ
真実なんて意味がない
得意満面な顔でそう嘯くバトラー。
アンビリバボーのスタッフさんがバトラー氏本人に、以下のような質問をぶつけられました。
Q:バトラーさんのような人が真実が見えない世界を作っているのではないですか?
A:僕が真面目に話しかけても誰も耳を貸さないでも今回のようなことをやったら世界中が耳を傾けた。まず耳を傾けてもらうことが一番重要だった。
Q:お客さんに申し訳ないという気持ちはありますか?
A:別に彼らにお金を払わせているわけでもなく、たいした時間も奪っていない。
Q:記念日に予約しようとしたお客さんの気持ちは考えましたか?
A:僕は口コミサイトで1位になることしか考えていなかった。予約する客のことは正直、頭になかったよ。まさかそんな視点からこの問題を考えたこともなかった。いい質問だね。僕にはわからないよ。
バトラー氏はあたかも最初から、この世にはびこるフェイクニュースに対する大衆の脇の甘さに警鐘を鳴らすという大義を胸に、この試みを始めたかのごとく話していましたが…。
お客さんからの予約電話を断る自分の姿を動画に残したり、「また来たい」と感想を漏らしたお客さんの言葉を聞いて、影に隠れて「また来たいだってよ!」とバカにする態度など、彼の根本にとても社会全体への使命感があったなどとは考えにくく。
ただの幼稚なイタズラのようにしか思えず。
最後の質問への答え
そんな視点からこの問題を考えたこともなかった
が示しているように、他人の心がわからないタイプの人間であるように感じました。
最後に、彼によって荒らされた口コミサイトが、この事件について語ったコメントが印象的でした。
我々のサイトに偽のレストラン情報を載せようとするのはごく一部の心無いジャーナリストだけである
このような行為は現実世界では大きな意味をなさないだろう
しかし我々は口コミを正しく利用してくれる人の不利益にならないよう、ウソの口コミ対策を講じていく
ただし、我々もネット社会の中でウソのニュースに対する心構えは大切で。
動物園からライオンが逃げた、と言ったウソのニュースをツイッターで流した大バカ者のツイートを、多くの人が何も確かめもせずリツイートして、大きな問題になったのも記憶に新しく。
注意深く接していかねばならない問題であることには変わりないのでした。