太陽が発狂したかと思うほどの日差しの中。
ほとんど代わり映えのしない景色と日陰という逃げ場のない川沿いの道を。
100kmと70kmに渡って走り続けた、愛すべきランナーたち。
ゴールで待っていたのは、笑顔と涙でした。
去年ダメだった2人
僕が友人たちの中で特に気になっていたのが…。
岩田さんと岡部さん。
去年、わずか45秒遅れで、ゴールと認められなかった東京の岩田さんと、
去年の後半、ずっと足に力が入らず、ラストの大阪城へと向かう橋の上でタイムアウトになった岡部さん。
例年と同じ、豊里エイド横で応援していた僕たち夫婦。
70kmランナーのコース
70kmランナーは、
①大阪城を出て淀川に入り、
②最初の毛馬エイドに立ち寄り、
③延々と川沿いを走り、豊里、鳥飼、淀川大橋、枚方を通過し、
④やっと折り返し点で回れ右。
⑤再び毛馬まで戻ったあと、再度、回れ右。
⑥豊里まで戻って、
⑦そこで折り返し、毛馬を経て大阪城に戻ります。
岩田さん:16時通過
さて、岩田さんが最後に豊里エイド横のわれわれの前に来られたのは16時ごろ。
まずは豊里で折り返すため、われわれをスルーし、豊里で折り返してから寄ってくれました。
表情は明るく、まだまだ余裕があり。体力的に完走は間違いない状態でしたが。
いかんせん、残り時間が…。
この段階で16時ちょうど。残りの距離は約10km。
とっさにランナー電卓で計算したら…。
キロ9でいけるから!大丈夫ですよ!
と僕は岩田さんに言いました。岩田さんの方も、
うん、今年はたぶんイケると思う! …。コケなければね(笑)
とおっしゃいました。
くれぐれも、こけないでね!!
と最後に僕は念を押しました。彼女は昨年、残り数キロのところで転倒、身体を強く打ち、回復に数分の時間を要しました。そのため、45秒差で制限時間をオーバーしてしまったのでした。
しかも、今日もここに至るまですでに2回も転倒している、とのこと。
彼女はこの僕の言葉に笑顔で返事をすると、淀川最後のエイド・毛馬エイドに向けて走り始めました。
岡部さん:16時10分通過
そしてもう1人の岡部さんは…。
なかなか、姿が見えませんでした。
今年もダメなのかな…。と思ったその時!
岡部さんも、戻ってきました!
しかも足取りは、かなりしっかりしています!
去年はこの辺りで、膝が抜ける感覚に悩まされ、力感のない弱々しい走りでしたが。
今年は力強く、大地を蹴っています!
彼女も豊里の折り返し後、我がエイドに寄ってくれました。
大丈夫かなあ、今年もギリギリやけど!
と岡部さんは明るく言っていました。
大丈夫大丈夫!キロ9で間に合うくらいやから!!
と僕は言いました。
が、これは間違いで。
さっきの岩田さんの段階でキロ9だったので、あれから10分近く経過したいま、本当はもう少し早く走らなければいけません。
しかも、僕は毛馬から大阪城まで5kmで計算していましたが、実際には7km近くあります。
岡部さんはキロ7ちょっとくらいで走らなければ間に合わない時間でした。
なんか、50kmすぎで足が復活して!今はしっかり走れるねん!このままイケたらゴール、間に合うかも!!
彼女は満面の笑顔でそういうと、われわれのエイドを飛び出して行きました!!
エイド撤収、ゴール地点へ
時間は16時を15分ほど回っていて。
僕たちはクルマで来ています。淀川の無料駐車場に駐めているのですが。
そこは5時で閉場。過ぎると出られなくなります。
岡部さんを見送ったあと、エイドをたたむ準備を始め。
5時ちょうどに、淀川の駐車場を出ました。
目指すは…。
大阪城。ゴール地点です。
4分前、到着。
70kmランナーの制限時間は17時30分。
大阪城の駐車場に車を入れたのは、17時20分。
そこから走って、ゴール地点まで向かうと…。
ランナー達が続々とゴールしています!!
たどり着いたのは17時26分、70kmの制限時間まであと4分というタイミングでした。
岩田さんが来た!!
もうみんな、ゴールしたんだろうか?!
そんなふうに考えていた、その時…。
岩田さん来た!!
とお方さまが叫びました!!
岩田さんは坂を猛ダッシュで降りて来て、ゴールへと向かって来ていました!
残り時間は2分少し、もうゼッタイ間に合います!!
岩田さん、岩田さん!!
僕とお方さまは必死にそう叫び、呼びかけました!!
岩田さんご本人も、われわれに気づいたとは思いますが、こちらには視線すら動かさず、ただ左手を少しだけ挙げて。
視線はまっすぐ、ゴールだけを見据えていました!!
11時間、27度を超える日差しの中を走り続け!!
あと100メートル、残り時間は2分を切っている!!
彼女は去年、45秒遅れでゴールできなかった!!
ゼッタイにゴールする!!その強い思いが全身からみなぎっていました!!
残り3メートル、歯をくいしばる彼女の表情に、僕は涙が溢れました!!
そして…。
ゴール!!
わずか、66秒前のゴールでした!!
素晴らしい!素晴らしい!
僕は去年のことを知っているので。
「来年は必ずリベンジしなきゃ」
という彼女の言葉を覚えていたので。
僕らの声援にさえ目を向けず、全神経をゴールに集中させていた、あの表情。
あの表情に隠された、1年間の思いを知っていたから。
心から感動しました。
岡部さんは…。
しかし…。
岩田さんでさえ、わずか66秒前のゴールだった、ということは…。
僕たちのエイドに、岩田さんより10分近く遅れて来ていた岡部さんは当然、間に合わなかった、ということだ…。
残念だ…。岡部さん、あんなに今年のメダルが欲しい!って言ってたけど…。
2年連続、DNFだったか…。
とにかく、岡部さんが帰ってくるまで待とう…。
そう心に決め、ご主人とゴールを喜び合っている岩田さんの元に向かいました。
逆光でしたが、祝福の光のように見えたのでそのまま撮りました。
意外な事実
おめでとうございます!!ギリギリでしたね!!
はい!!でもゴールできてよかったー!!
岩田さんは元気に、そう答えてくれました。
リベンジできましたね!有言実行!!
最後の毛馬エイドはすっ飛ばしました!寄ってたらゼッタイ、間に合わないとわかってましたから!
でも…。岡部さんはアカンかったみたいですね、岩田さんより10分、遅れてたから
と僕がいうと、岩田さんは「??」な顔をされて。
岡部さんなら、私より先にゴールしてるはず。途中で抜かされましたから。
ええっ!!
なんと岡部さん、10分前を走っていた岩田さんを途中で抜き去り、彼女より早くゴールしていたのでした!!
実は先ほどの写真にも、岩田さんに声援を送る彼女の姿が見切れていて。
感涙(;ω;)
岡部さんはゴールの反対側にいらっしゃいました。僕が駆け寄ると、いつもと同じ笑顔の中から、涙をぽろぽろと流され。
欲しかった完走メダルを誇らしげに僕に見せてくれました。
究極の戦法
あのあと、途中で出会った友達が、「もうエイド寄ってたら間に合わないから!!」ってみんなに言われて。
去年、マッサージしてくれたエイド、岩田さんが寄ってはったけど、私はもう時間がなかったからすっ飛ばして!毛馬エイドもすっ飛ばして!
途中からずっと、7色アフロの友達が引っ張ってくれて。でも私には速すぎるペースやから、「ついていけません」っていうて。でもついて行かへんだらゴールでけへんって言われて。必死について行ったんです!
どうやら僕が誤って伝えた、キロ9分でゴールできるというウソ情報は、その後に出会った友人たちによって訂正されていたみたいで。
正しい情報に接した彼女は、すべてのエイドをスルーする、という究極の戦法をとり、また引っ張ってくれる相棒も得て、ゴールへと導かれたようでした。
7分7秒前のゴールでした!
他人事ながら、こんなに幸福感に包まれた経験はついぞなく。
去年、涙を飲んだ2人の友人が2人とも、見事に雪辱を果たしたのでした。
お二人とも、お疲れ様でした。
素晴らしい走りを見せてくれて、ありがとうございました。
また来年、お会いしましょう。
次こそ、僕もランナーとして参加しますから!