僕たちが出していたエイドは第4関門の1.5kmほど手前にありました。
昨日の記事でも書いたように、かなりの量の物資を追加購入して提供していましたが…。
関門閉鎖30分前くらいまで来ると、エイドに物資はほとんど残っていない状態でした。
おっくんが言いました。
「僕が飲もうと思って買っておいた麦茶があるから、それを出しましょう!!」
れいちゃんが言いました。
「私も水、1本あまってるから、それを出しましょう!!」
オレ
「お…。お前らってヤツは…(感涙)」
僕は一瞬、葛藤と戦いました。実は僕のカバンの中には、お昼に食べようと思っていた5個入りチョコパンが、手をつけずに残っていたのです。
“このチョコパンを出すべきか?”
僕はチョコパンが大好きです!!エイドが終わったら食べようと密かに思っていたんですが…。
福島さん
「僕が食おうと思ってたミルクパンも出しましょう!!」
オレ
「キ、キサマまでもかっ…」
「この水も、麦茶もパンもスタッフ用のヤツ、解放します!!水、飲んでくださーい!!」
関門閉鎖20分前
いよいよ時間がなくなって来ました。
でもランナーはまだまだやって来ます!!
関門閉鎖が迫っているので、エイドに寄ってたら間に合わない!!
しかし、それでも…。
ランナーはエイドに止まります。よほど暑く、よほど消耗しているのでしょう。
あっという間に、おっくんの麦茶やれいちゃんの水はなくなってしまいました。
残ったのは氷しかありません。
僕はランナーに、
「氷だけやけど!!氷だけいる人、いますか!!??」
と声をかけると、ほぼ全てのランナーが、
「氷!!ください!!」
と手をあげます。
僕はクーラーボックスの中に残った、赤ん坊のこぶし大の氷を、
ランナー1人づつに手渡しました。
彼らはたった1個の氷を握りしめ、
「ありがとう、ありがとう!!」
と言って走り去ります。
「チクショウ…。なんて愚かで、なんて素直なランニング馬鹿どもよ…」
関門閉鎖15分前
関門閉鎖15分前、それでも続々とランナーはやってくる
五体満足のランナーなどいません。
あるものは足を引きずり、あるものは腰を曲げ、あるものは痛そうに肩を落とし。
たった一個の氷だけを頼りに、次の関門を越えようとしている。
正確には、「お漬物」「ポテトチップ」などはわずかに残っていましたが、消耗が激しいランナー向きではないの食材ばかり。
そんな時、1人のランナーが立ち止まり。
福島さんの私物だったパンに目を止めました。
それは出して時間が立っていたため乾燥し、他のランナーたちも敬遠していたもの。
「このパン、もらっていいですか?!」
そのランナーさんは叫びました。
「もちろんいいですよ!!」
彼女は胃腸に自信があるのか、その乾燥パンを美味しそうに頬張りこう言いました。
「エイドに、食べ物がないんです」
「食べ物がない?」
「はい、公式エイドにもう食べ物が残ってなくて。お腹がペコペコで…」
村岡のエイドは食べ物が豊富、と聞いていたので、まさか公式エイドも物資がなくなっているとは思ってもいませんでした。
最後の一個の氷を手渡し。
いよいよ、物資は無くなりました。
関門閉鎖10分前。
「えーい、ままよ!!」
僕は楽しみにしていたチョコパンを出しました!!(遅!!)
残り時間10分、
関門までの距離1.5km。
「キロ6分半で間に合うから!!このパン食べてあと1キロ半、キロ6分半で走れ!!」
歩こうとしていたランナーも、この声に再び、走り出す。
関門閉鎖8分前
「キロ6でも危ない!!キロ6を越えて、あと1.5kmだけ走れ!!」
この段階のランナーは、一瞬も足を止めることができません。
パンはテーブルに置いてたら取れない。
僕はパンを手に持ちランナーと並走し、
「パンいるか?パンいるか?」
と尋ねました。
ほとんどのランナーは、迫り来る時間に集中し、
水分も何もない状況では、
「パン、いらん!!」
と走り去るランナーが多かったけど、
数名のランナーは、
「パン、ありがとう!!」
とそいつを口にして…。
地獄の坂を80km以上越えてきた足で、関門を超えるため、
キロ5分20秒で走る、という、
不可能にさえ思えるミッションへと、旅立って行きました…。
いったいどのあたりのランナーまでが関門に間に合ったのか、それは僕らにはわかりませんが。
唯一の救い
たった一つ、救いがあるとすれば。
我がエイドから第4関門までの距離は、実は1.5kmではなく。
1.3kmあるかないか、と言った距離。
1.5kmあると思って旅立ったランナーたちは、意外に早く現れた関門に、少しだけ、ホッとしたのではないでしょうか。
お方さまエイドのスタッフたち。人知れず身を削った彼らに完走メダルはないけれど。
ランナーたちの笑顔が、何にも代えがたいメダルなのさっ!!