その1はこちら。
守り神を捨てた祟り
話は少しズレます。
僕はおよそ23年間、1台の車に乗り続けていました。
妻と結婚して来年で20年。ですので、結婚前から乗っていた車。
僕は壊滅的な方向音痴なので、
その車を購入する際、
グレードは最低のモノを選び、
その代わりに、
最高級のカーナビを装着しました。
当時、まだカーナビはそれほど一般的な装備ではなく、
その最新版のカーナビは、僕のとてつもない方向音痴を補うに余りあって。
妻と知り合って、日本海にカニを食べに行ったり、
和歌山に海水浴に行ったり、
僕と妻の絆を深めるのに、とても役に立ってくれました。
でもさすがに23年も乗っていると、いろんなところにガタがきて。
車としての機能はまだまだ使えましたが、
今後、車中泊で日本中を回ろうとの夢を持つ僕たちは、
車の買い替えを決意しました。
よく、長年乗った車を買い替える際に、
それまで故障もしなかった車が、急に調子が悪くなるとか言いますが、
僕が長年乗ってきて車はそんなこともなく。
車の乗り換えは、とてもスムースに終わりました。
23年も乗ったので、名残惜しい気持ちはもちろんありました。
こうして僕たち夫婦は、結婚してずっと乗り続けた車を、
新しい車に乗り換えたのでした。
それが、5月2日のこと。
妻が癌の宣告を受けたのは、
5月30日。
1か月も経たないうちに、
人生で最悪の瞬間を迎えたわけです。
僕は思いました。
もしかしたら、23年も乗り続けた前の車は、
いつしか僕たち夫婦の平和や安寧を守ってくれる力が備わっていて。
それを無慈悲なまでに捨て、新しい車に乗り換えたことで、
僕たち夫婦に、災いが降りかかってきたのじゃないだろうか…
妻の乳癌が分かって以来、
そんな考えが僕の頭を支配していました。
これを聞いた他人は
そんなバカな
と苦笑してしまうでしょう。
でも僕という人間は、
自分でも異常だと思うほど、
縁起を担ぐ人間なんです。
車を買い替える際は思いもしませんでしたが、
旧車によって守られていたモノが失われた
この時、僕はそう信じ切っていました。
正直言うと、
廃車しよう
と、大まじめに考えていました。
納車後、1か月も経っていない車を。
でも、そんな考えを改めさせてくれたのも、また妻でした。
妻は、新車を、とても喜んで運転してくれました。
車中泊がしやすい、大きな荷台。
雪道も進めるように、4WD。
ディーゼルエンジン。
とても高い位置にある運転席。
乗用車というより、どちらかというとトラックを運転しているかのよう。
妻は、その車を運転することが、とても楽しいようでした。
前回の投稿で言ったように、僕はほぼ毎日、
妻の勤務が終わると、会社の横まで車で迎えに行きました。
癌告知を受けた妻が、混んだ電車のストレスを感じたりしないように。
そして、妻がやってくると、僕は運転席を降り。
運転を妻と変わって、
妻が、家まで約30分の道のりを、運転する。
1日の会社勤務のストレスを、
楽しいドライブで、少しでも解消できるようにと。
妻は新車の運転席で、
ちょっと緊張しながら、
ずっと笑顔で、
ドライブを楽しんでいました。
妻が、この車を気に入ってくれている
僕は廃車手続きをやめることにしました。
6月10日月曜日
前回、妻の乳癌は早期と言えると断言してくれた女医先生。
その2回目の診察です。
今回もS子叔母さんが一緒についてきてくれて。
S子叔母さんの運転で、八尾市立病院へ。
もちろん、われわれ夫婦は使わない、
S子叔母さん独自の、抜け道ルートを使って向かいます。
この1週間で妻はCTを受けているので、癌のより詳細なデータが分かりました。
・HER2(癌細胞増殖に関係するタンパク質)の結果はマイナス。
・なので抗がん剤治療→手術、という手順ではなく、すぐ手術、という手順
・核グレードは最も活発な3を示している
・抗癌剤治療をすべきかは手術で取った検体を調べて決める
・最も早い手術日は7月31日
・発見→手術の今の平均期間は1か月半
・妻の場合2か月開くので少し長い
・その期間を埋めるためホルモン治療を先に行う
・CTによる転移検索は問題なし、肺、肝臓などへの転移は見られない
・子宮にのみしこりが見つかる←去年の卵巣脳腫の名残か
・腋のリンパ節への転移は今のところ見当たらない
・しかし手術で開けてみると転移があるというのはよくある
・手術のやり方は、本日のMRIでより詳しい状況を見てから決める
そう言ったことの説明がありました。
『胸を残すか、ぜんぶ取るか』
MRIを取らないと詳しくは分らない、としながらも、女医先生の今の見立てでは、
胸を残す
という手術が可能と思う、とのことでした。
ですが女医先生が言うには、
胸を残した場合、放射線治療が必須になります。それがイヤだから全部取ってください、という患者さんもいます。
また、少しでも乳腺が残っているのがイヤ、という理由で全部取りたい、という患者さんもいます。
まったく逆に、癌が大きいため、胸を残す手術ができない、とこちらがいくら言っても、絶対に残してほしい、と希望される患者さんもいます。
S子叔母さんが先生に、
残した場合、再発するリスクが高くなる、ということはありますか?
と質問してくれました。
左胸にもう一度出てくるということは放射線治療をするので大丈夫。ですが遠隔転移と言って、よそに出てくる可能性はどの手術をしても同じ
乳首を残せるかどうかなど、判断材料はいくつかあって。
先生がおっしゃるには、
妻の癌は決して小さいものではないものの、多少の欠損はでるが胸も乳首も温存は可能だろう、だが詳細は来週、MRIの結果を見てから
とのことでした。
今回も、
・ほかの臓器への転移は見られない
・胸は残すことができる
など、癌という最恐の病魔に侵されたものの、その中では、
不幸中の幸い、と言っていい診断結果となり。
僕は胸をなでおろしました。
ですが最後に…
一点だけ。CTとかで腋のリンパ腺に問題はないように思うんだけど、一か所だけ、気になる場所があるんです。今ここで針を刺してそこの細胞を取って検査に掛けたいんですけど…
先生はそう言って、僕とS子叔母さんを診察室から退室させ、
妻は上半身を脱ぎ、
麻酔もなく、腋に針をブスリと刺し、
針をグリグリと回して、
先生が気になっている個所のリンパの細胞を採取したのでした。
この間、僕と叔母さんは診察室から出ていたのですが、先生は、
麻酔してもいいけど、結局、注射の針を腋に刺すんで。腋に針が刺さると痛いんで。結局、痛いのは痛いんです。だから麻酔なしでいい?
ということで、一連の作業は麻酔なしで行われたそう。
針を刺して、グリグリ回された時が、一番痛かった…
妻は後にそう言っていました。
こうして僕は、また1週間、
必死に口角を上げ、妻に笑顔を見せながらも、
(腋のリンパ節への転移は、あるのか、ないのか…)
という恐怖と闘うことになるのでした。
姉への電話
僕には隣県に住む、2歳年上の姉がいます。
2~3か月に1度は妻と二人で会いに行くような間柄。
僕はまだ姉に妻の病気のことを伝えられずにいて。
この日、思い切って姉に電話をしました。
麗子の胸によくないものができた
というと姉は最初こそ驚いたものの、
乳癌なら大丈夫や!もう今の医療はすごく進歩してて、乳癌はよほどじゃない限りゼッタイに治る病気やねん!
姉は力強くそう答えました。
大人になってから気付いたのですが、
僕の姉は、
メンタルがとてもタフなようです。
僕が心臓カテーテル手術を受けた際も、
心臓カテーテルなんか日帰りする患者もいるほど大したことない手術やで!
と術前に僕を力づけてくれました。
でも本当は姉は、前夜は心配でほとんど眠れず、僕の手術中は、一緒に待ってる妻の隣で眠ってしまっていたそうでした。
で、胸はどうするの?全部とるの?残せるの?
先生は残せる、と言ってる。しこりはやや大きいけど初期で、多少は欠損するけど残せるって。でも俺は、麗子さえ無事なら例え胸が片方なくなってもぜんぜん構わない…
僕が言い終わらないうちに、姉が強い口調で言います。
違うねんって!女性にとって、胸がなくなるってことは、ものすごいことやねん!だからもし残せるんやったら残した方がいいって!
姉のこの言葉に僕はハッとしました。
僕は男性なので思いを巡らすことができなかったけど、
女性にとって、胸がなくなるってことは、ものすごいこと
女医先生は、
(乳癌の再発を恐れて)少しでも乳腺が残るのがイヤで全部とる人もいる
という例を教えてくれたけど、
一般論としては、胸は、女性のアイデンティの最たるものなので、
それがなくなった時のメンタルを考えろ、というのが
姉の意見なのでした。
姉はどうやら、親友の1人が乳癌を経験したらしく、
そのあたりを詳しく理解しているようでした。
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また長くなったのでここで切ります。もったいぶるわけではなく、長すぎるブログは読む側には負担になり、結果、読んでもらえなくなるから。
僕がこの話で伝えたいことはただ一つです。
女性の皆さんへ:乳癌検診や子宮癌検診、人間ドックなどには、必ず受診して自らの身を守ってください
男性の皆さんへ:人間ドック等は必ず受診しましょう。
その1で書きました。妻は2年以上、乳癌検診に行っていませんでした。
会社の検診より市の検診の方が安いので、会社検診に行かず、市の検診を申し込もうと思っていて忘れていた
というのがその理由。
今回、妻は初期で見つかったので不幸中の幸いながら、これがもし、
初期を通り過ぎていたら…。
検診料の、わずか数千円の違いのために、
命を危険に晒すことになっていました。
もし僕が億万長者なら、妻は数千円の検診料など鼻にも掛けず、
便利に手軽に受信できる方で受診していたでしょう。
もしこんな理由で妻に万一のことがあったなら、
僕は稼ぎの悪い自分を許すことができなかったでしょう。
もちろんほとんどの方は、毎年、健診を受けている方がほとんどでしょう。
でも中には、悪い結果が出ることを恐れて、
健康診断なんてカラダに悪いことはしませんよ~(笑)
などと斜に構え、大物ぶって、
本当は子供より小心者だから、
検診に行かない大人というものも存在していて。
ですのでみなさん。
どうか、健康診断には時間やお金を惜しまず、受診してください。
ある日とつぜん、
あなたは癌です
と言われた妻の気持ち、家族の気持ち、を想像してみてください。
この駄文を読んで一人でも多くの方が、自分の健康を見直すきっかけとなることを願っています。