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妻が、癌になった日 その3 最後の検診で大ゲンカ

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6月17日月曜日

 

(腋のリンパ節への転移は、あるのか、ないのか…)

 

この1週間、僕の頭の中はその言葉でいっぱいでした。

 

もちろん妻にそんなことを悟られてはいけない。妻の前では陽気で明るいバカ男を演じていながら、

 

転移のことで気が狂いそうなほど心配でした。

 

MRIもエコーも大丈夫だったのに、先生の触診で少し気になる箇所があるって言ってた…。可能性はゼロじゃない

 

楽観視してダメだった時のショックは、みちした乳腺クリニックで経験しています。

 

僕は心に分厚い鎧をかけて、女医先生の診察室に入りました。

 

S子叔母さんはこの日も同席してくれています。

 

妻、僕、S子叔母さんの順で診察室に入ります。

 

女医先生はいつものように、明るい笑顔で僕たちを迎え入れたあと、

 

いきなり本題を切り出しました。

 

前回、腋の方のリンパで気になる箇所があったので、その細胞を取らせていただき検査に掛けたんですけど。

 

特に悪いものは入っていなかったということですので。

 

予定通り、手術を先行する形で進めますね

 

先生のこの言葉で、僕たち3人を縛り付けていた、癌という名の呪いの鉄鎖が、

 

再び、少しだけ弛みました。

 

特に僕は安堵のあまり、力が抜けて、

 

下を向いて、

 

また、落涙してしまいました。

 

先生は、そんな僕を、

 

見て、見ないフリをして。

 

僕の涙が落ち着くまで、

 

PCモニターを再確認するフリ。

 

次の言葉を発するまで、時間をおいてくれたのでした。

 

乳癌が見つかり手術先行する場合の待機時間は1か月半が普通だけど、

 

池田さんの場合2か月と、待機時間があります。なのでホルモン治療を先行して行おうと思います

 

これは女性ホルモンが癌細胞に影響を与え、癌細胞の増殖を促進させてしまうので、薬で女性ホルモンを減らすという治療法。

 

本来は手術の後に薬を飲むのですが、時間があるため、手術前から薬を飲んで行こう、という先生の治療法です。

 

このお薬、骨を少し弱くしてしまう副作用があるので、前回、骨密度を調べさせてもらったんですけど。

 

骨、すごく強いですね。だから問題なくお薬を使うことができます。

 

今回、気になる箇所の細胞を取って転移を見て、ないことが分かりました。

 

MRIを見ても転移はないと今の段階では思っています。

 

ですが手術の際は、実際のリンパ節を取って、検査にかけて、転移のある/なしを見ます

 

池田さんの乳癌は一塊で、最大径29ミリ、約3㎝。

 

プラス「のりしろ」部分を除去するので約5cmの欠損が出ます。

 

胸を残す場合、手術後、放射線治療を25回受けていただきます。

 

術後の検体を調べ、リスクが高いと判断すれば、放射線治療の前に、

 

抗癌剤による化学療法を行い、放射線治療はその後ということになります

 

胸は…残す方向でよろしいですか?

 

い…今、決めないとだめですか?

 

今じゃなくていいです。ただ、再建(胸を取り、新しく胸を作る手術)を希望されるなら、

 

私らだけじゃなく、形成外科医が一緒に入らないといけないし、どういう再建にするか前もって打ち合わせも必要なので、

 

再建希望の場合はなるべく早く決めてほしい

 

再建は考えてないです

 

それなら私らで何とでもできるので、胸を残す/残さないの判断はいつでも構わないです

 

ここでS子叔母さんが質問。

 

いちばん安全なのは全部取る、という手術ですか?

 

温存の手術の場合、切り取った部分を病理のドクターに見てもらうんです。それが「問題ない」なら手術は終わる。

 

でも病理の標本って、本当は固定して、寝かせて、時間をおいて見るのが本当の見方で。手術中は簡易的な見方で見ているんですね。

 

そのため手術中はOKだったとしても、たまに、深切をしてみると断端がすごく近かった、という場合があるんです。

 

「近かった」くらいなら放射線を当てる回数を増やすなりで対処できるんですけど、

 

「断端がはみ出してる可能性がある」場合もあるんです。

 

その場合はもう、切り足すしかない。つまり再手術です。

 

温存手術のデメリットは「再手術の可能性がある」です。

 

女医先生は素人の僕たちにもわかりやすいように、胸を残す/残さない手術の場合のメリット・デメリットを丁寧に教えてくださいました。

 

僕はそれを頭に叩き込みながら、

 

あるひとつの言葉が、脳内で再生されました。

 

それは、妻の「また従妹」にあたる、肺専門外科医のY子医師の言葉。

 

妻が胸のしこりを最初に診てもらった、みちした乳腺クリニック院長の道下先生に、

 

偶然ながら、ずっと指導を受けていたというY子医師は、

 

道下先生を評してこう言いました。

 

もし私が乳癌になったら、最初に道下先生に相談する

 

この、

 

外科医の先生が患者と同じ立場になったら、

 

という考え方は、僕の中では意外で新鮮な切り口でした。

 

僕は女性の身体のことは分らないので、女医先生のこれまでの診療の間、

 

ずっと黙って話を聞いていましたが、

 

この時、初めて口を開きました。

 

そしてこう聞きました。

 

もし先生が妻の立場だったら、先生は胸を残しますか?ぜんぶ切除しますか?

 

この質問は、女医先生を少し驚かせたようでした。

 

僕が初めて口を開いたことに驚いたのでしょうか。

 

それとも質問内容に虚を突かれたからでしょうか。

 

これまでずっと立て板に水で話していた先生が、少しだけ口ごもりました。

 

そしてこういわれました。

 

わ、私やったら…。

 

温存のメリットは「早く帰れる」ということなんです。

 

火曜日に入院、水曜日に手術、問題なければ、金曜日に退院です。

 

私やったら、患者さんがいっぱい待ってはるんで、すぐ仕事に復帰しないといけないんで。だから温存を取ると思います

 

先生のこの言葉は貴重でした。手術を担当する本人なら温存を取る、という言質は、妻の今後の判断に大きな影響を与えそうでした。

 

S子叔母さんが聞きます。

 

ぜんぶ摘出した場合の入院はどのくらいですか?

 

全摘したらそこに空間ができます。

 

人間の体が傷を治そうとしてそこにリンパ液を出すんですね。それを取り除くためドレーンというチューブを入れて帰ってきます。

 

リンパ液の分泌が少なくなったらドレーンチューブを抜く、ということです。

 

これは人によって違いますが、早くて1週間、遅い人だと10日とか2週間とかかかります。

 

平均で言うと10日は入院が必要です

 

よく来る質問が、胸が片方はあって片方がないのはバランスが悪くなるのでは?という質問です。

 

それほど不都合があるってことはないです。

 

あとは傷が長くなって腕が上がりにくくなるのでは?という質問も来ますが、そんなことはないです。

 

放射線治療もするので再発という点ではどちらも変わらない。ただ同側の乳房に出てくる率は数パーセントだけ温存の方はあります。

 

肝臓だとか肺だとか、関係ないところに出てくるのは手術のやり方は関係ありません。

 

あとはライフスタイルと見た目をどうするかで考えていただいたら良いんじゃないかなと思うんで。

 

このあと先生は、今日から飲み始める薬の説明と、

 

手術前の最後の診察になる次の予約を入れてくれました。

 

(本当なら7月の半ば頃に手術が一般的なのに、妻の場合はそれからさらに半月遅い、7月の末…)

 

僕はこのことがとても不安でした。

 

(その間に進行しちゃうとか、そんなことってないんだろうか…)

 

(その進行を遅らせるための薬なんだろうけど…)

 

(しかも、癌の手術、っていう、すごい手術なのに、初診から数えて4回の診察だけで、もう手術だなんて…)

 

(早いんだな…)

 

口にこそ出しませんでしたが、

 

僕の内心は不安だらけでした。

 

たったひとりの癌患者

 

実はこの日の診察時に、

 

診察室前の待合所で、少しの間、待つ時間がありました。

 

僕、妻、そしてS子叔母さんの3人が、横並びに並んで座っていました。

 

少し離れた椅子に座っている、黒っぽい服を着た女性。

 

妻よりやや年上でしょうか。

 

ピンと伸びた背筋。

 

名前を呼ばれた時の、立ち上がる姿勢や、

 

キビキビと動く、歩く姿。

 

病院に来てるのに、一部の隙も無い服装。

 

お年を召した女性ですが、その凛とした姿。

 

スナックの人気店のママ

 

と言ったイメージの女性でした。

 

彼女は手に紙を持っていて。

 

女医先生がいる1番診察室に入っていきました。

 

彼女が僕たちの前を横切る際、

 

手に持った紙の文字が少しだけ見えてしまって。

 

そして乳腺外科の女医先生に呼ばれて。

 

そこで僕は確信しました。

 

あの女性も、乳癌の患者さんなんだ

 

と。

 

僕たちは、僕とS子叔母さんと妻の、3人で来ています。

 

3人で来たからと言って、妻の症状が軽減されるわけでも、

 

癌細胞が小さくなるわけでもありません。

 

でも、癌という、

 

この世でいちばん恐ろしい病気の診察に向かうに当たって、

 

1人よりも、3人でいる方が、

 

不安や恐怖は、ほんの少しでも、和らいで、

 

気持ちが強く持てます。

 

(そういう意味ではS子叔母さんからは本当に力を貰っています!!)

 

でも、その黒っぽい服装の女性は、

 

たった1人。

 

たった1人で、

 

乳癌という、

 

この恐ろしい病気に立ち向かっている。

 

その心中たるや、

 

どんなものだろう…。

 

さっき僕は彼女を、

 

スナックの人気店のママ

 

と評しました。

 

決してそれはネガティブな意味じゃなく、

 

自分一人で店を切り盛りし、ビジュにも気を使い、人生の荒波に立ち向かう人

 

という逞しい女性という意味合いですが、

 

たった1人で乳癌に立ち向かう

 

って、どれだけの不安と恐怖だろう。

 

それらを抱え、なお、

 

背筋をピンと張り、一部の隙も無い服を着て。

 

なんて強い女性なんだろう

 

と僕は思っていました。

 

あの方の手術の成功をお祈りしています。

 

7月8日月曜日

 

聖なる道

 

この日は、女医先生の診察を受ける最後の日。

 

手術前日、入院日の7/30まで、もう女医先生と会うことはありません。

 

もちろんこの日もS子叔母さんも同席してくれるのですが、

 

いつもと少し変化がありました。

 

というのも叔母さんから前日、僕は電話を受けていました。

 

いつもは私の車で行ってるけど、8日は家の者が車を使う。池田さんの車で私を迎えに来てほしい

 

もちろん叔母さんがいてくれるだけで妻は落ち着くし、心強いので、僕が車で迎えに行くなどお安い御用。

 

ですが1つ問題が。

 

「その2」で書いたように、池田家は5/8に新しい車に変えたばかり。

 

少し大きくて。トラックみたいな乗り心地の車に。

 

そしてS子叔母さんが運転して僕たちを病院へと連れて行ってくれる道は、

 

われわれ夫婦が使ったことの無い、抜け道。

 

抜け道だけあって、細くて曲がりくねっている。

 

(僕の、図体のデカい車で、あの細い道を行かないとダメなんだ…)

 

こんなことを思うのも理由があります。

 

僕は、自分でも呆れるくらい、

 

縁起を担ぐ人間です。

 

みちした乳腺クリニックで初めて妻が癌宣告された日。

 

あの日に来ていた服は、ズボン、Tシャツ、帽子、すべて、

 

2度と着ないよう袋に詰めています。

 

癌宣告を受けた日に来ていた服=縁起が悪いから。

 

逆に、

 

初めてS子叔母さんに付いてきてもらい、女医先生から、妻の癌は初期のものだと断言してもらった日。

 

あの日に来ていた服は、一式、

 

縁起がいい服

 

として、その後も女医先生の診察日には、必ずその服を着て行っています。

 

カーキ色のTシャツ、黒の短パン、グレーの靴下、赤の靴。

 

あの服を着て行って、女医先生から、まだ、悪いことを言われたことがない。

 

癌は初期だったし、

 

リンパ節への転移も、

 

肺や肝臓などへの転移もなく、

 

即手術ができる状態だったし。

 

バカバカしいのは分ってますが、

 

僕は、そんな縁起を担ぐ人間です。

 

つまり、

 

S子叔母さんが、ずっと愛車で僕たちを病院へと連れて行ってくれてた、あの抜け道。

 

あの抜け道も、

 

縁起のいい道

 

であり、もう僕にとってあの道が

 

聖なる道

 

となっていました。

 

聖なる道じゃない、太い道で病院へ行くことなど、もう考えられません。

 

妻の抱える病気は癌です。

 

もし、聖なる道じゃない道で病院へ向かえば、

 

ちょっとMRIの結果で、見落としてたことがあって…

 

と、先生から、悪い報告を受けてしまう。

 

そんなことはゼッタイに避けねば!!

 

僕はまだ運転が慣れていない、やや大きい自分の車で、

 

妻とS子叔母さんを乗せて、

 

細くて曲がりくねった、“聖なる道”を、

 

必死な運転で通り抜けたのでした。

 

もちろん、

 

カーキTシャツと黒い短パンで。

 

手術前、最後の診察

 

妻は、胸を残す手術をしてもらうと決意しました。

 

温存ですね。わかりました。それだと放射線治療が必要になります。病理の結果が手術後1か月で出るので、放射線治療はそのあとからになります

 

池田さんの癌の最大径がMRIによると29ミリ、約3センチです。これに糊代をつけて約5センチ、を切り取ります。

 

切り取ると病理の検査に出します。それでOKならいいですし、ここがダメだよ、と言われれば、その先をさらに切り取ることになって。

 

アカンと言われるほど切り取る部分が増えるので、残す胸の形は悪くなります。

 

あと調べるのが、腋のリンパ節です。

 

調べ方ですけど、まず、手術の前日に、乳首に注射を打ちます。注射液がリンパに流れ込みます。流れ込んだリンパは、特殊な機械で分かるので、私がそれを取り、病理に出します

 

「癌の転移はありません」と病理から返ってくれば、手術は終わりです。

 

仮にあったとしても、3個までなら、術後の放射線治療で対処できます。それが4個以上なら、すべて取ります。

 

脂肪ごと腋のリンパをごそっと取るんですが、解剖学上、ここに神経があって。避けるものは避けますが、いくつかの神経は切るしかない。なので痺れの症状とかが出ます。

 

腋の掃除が入った時だけ、液を逃すチューブを入れて帰ってきます。最初は100ccくらいの液がでます。これが30ccくらいに減るとチューブを抜いて退院です。掃除が入らなければ入院は3泊4日、掃除が入れば入院は10日くらいになると思っといてください

 

術後の放射線治療は、週に5回。これを5週間。計25回やってもらいます

 

このほかにも先生は、手術の前後に関するお話を、かなり詳しく説明してくれました。

 

妻は、術後の仕事復帰のタイミングや、

 

抗癌剤治療が必要になった場合の注意点などを質問し、

 

先生は丁寧に答えてくれました。

 

こうして、

 

手術前の最後の検診が終わりました。

 

診察室を出るとき、先生が最後にこう言われました。

 

体調にだけ、気を付けてくださいね

 

癌が見つかって手術までの、今の平均待機時間は、1か月半。

 

妻の場合、先生のスケジュールの都合で、2か月。

 

やや長い待機時間を埋めるため、本来術後から始めるホルモン剤を術前から飲んでいます。

 

でも、もし手術前にコロナにでも感染すれば?

 

もちろん手術はできません。

 

そうなればさらに何か月も手術を待たないといけない。

 

ゼッタイに、そんな事態は避けなければ…。

 

ところが。

 

妻の、会社のスケジュールは…。

 

7月30日が入院なのに、

 

7月27日まで出勤になっています。

 

毎日、不特定多数のお客様と接する仕事。

 

ギリギリまで仕事して、

 

コロナにでも感染すれば。

 

ただでさえ長い待機時間なのに、

 

さらに何か月も手術日が伸びてしまう。

 

僕も、妻の夫として、このことに今日まで気付かなかったことを、強く反省しました。

 

でも気付いた以上、妻にこう提案しました。

 

今からでもいいから、今月の仕事は、23日までにしてもらいなさい。いまコロナがまた猛威をふるってるし、27日まで働くのはリスクが高すぎる

 

ところが。

 

妻はこの提案を、却下したのです。

 

もうスケジュール決まってるし。そうでなくても職場は人が減らされてギリギリで回してる。いまからスケジュール変更なんかできない

 

妻はこういう人間なのです。

 

僕は気が短いので、激しい怒りが沸き上がりました。

 

でも妻は病人だし、その病気は癌です。

 

妻に怒りをぶつけるなど、絶対にしてはいけません。

 

確かにスケジュールを決める前にこのことに気付いてやれなかったのは、俺も悪いと思ってる。

 

でも本来なら、当事者である麗子本人が気付いてほしかった。

 

でも、俺も気付かなかった。ギリギリまで仕事をしたら、そこで感染したらオジャンになることに。

 

でも、今、気付いた。

 

もっと、余裕を持って、入院の1週間前くらいから休むべきだということに。

 

気付いた以上、手術予定が狂わないよう、そのリスクは取り除かないと。

 

「旅行に行きたい」とか「友達が田舎から来る」とか、そんな理由によるスケジュール変更じゃない。

 

癌手術のためのスケジュール変更やで。

 

命に係わる話やで。

 

麗子が、文字通り、死ぬ可能性を孕んだ話やで。

 

ゼッタイに、スケジュールを変えてもらいなさい。

 

麗子が言えないというなら、明日、俺が麗子の職場に乗り込んで上司に話す

 

怒りを抑えはしたものの、強い口調になりました。

 

それでも妻は、首を縦に振りません。

 

ただ、S子叔母さんが、その話を聞いていて。

 

冷静な口調で、

 

それは、池田さんが正しいわ

 

と口添えしてくれました。

 

母親以上の存在であるS子叔母さんにそう言われて。

 

妻はやっと、折れました。

 

じゃあ…。明日、上司にお願いして、24日から休ませてもらうことにする

 

こうして、手術の1週間前から休みを取って。

 

妻は万全の態勢で、手術の準備をすることになります。

 

ところが。

 

あんなに、

 

あんなに、偉そうに喋っていた、

 

僕自身が…。

 

妻の手術の1週間前に、

 

風邪をひく

 

という、大失態を犯すことになるのでした…。