「女007」ではない
「女007誕生」とか「最強の女スパイ、現る」とかいうキャッチフレーズが踊っています。
スパイ映画、というと「007」や「ミッション:インポシブル」などが真っ先に頭に浮かびますが、あの種の映画を期待して本作を観にいくと、おそらく肩透かしを食らうことになります。
フェラーリやBMWを使った時速200kmのカーチェイスシーンなどありません。
ボンドがやったような、走っている列車をシャベルカーで連結してとびうつる、といった奇想天外なアクションはありません。
世界一高いビルをよじ登ったり、離陸直前の飛行機に飛び乗ったりもしません。
ましてや、ワイヤーアクションで、人間が横に回転したりするシーンなどまったく皆無。
スパイ映画ならでは、の全世界の観光名所を舞台にした、ワールドワイドな世界観もありません。
シャーリーズ・セロンのアクションシーンをこれでもか!!とばかりに予告で流して、「女007」なんてキャッチコピーで宣伝するから、
「アルマーニのスーツを着たシャーリーズ・セロンが、世界中を飛び回り、特殊な改造を施したスーパーカーでミサイルを発射しながら、ハンドバッグ型ひみつ道具で敵の秘密基地の鍵を開け、ラストはナイアガラの滝で敵と戦う…」
といったイメージで映画館へ向かうと大失敗します。
どちらかといえばジェイソン・ボーン的な、リアルなイメージを残したスパイアクションに近いかもしれません。
でもボーンは世界中を移動しますが、ロレーン・ブロートンは東西ベルリンの中だけで行動します。そういう意味ではボーンより地味かもしれません。
硬派なスパイ映画
舞台は壁の崩壊直前のベルリン。事情聴取の場面はロンドンですが、物語のほとんどはこのベルリンでのみ、行われます。
ええっ、スケールの小さい話なんだな…。とお思いになるでしょう。
そうなんです、本作の基本姿勢は、
「硬派なスパイ映画」
というジャンルに入るのではないでしょうか。
かといって、「硬派すぎない」「硬派だけどエンターテイメント性もたっぷり」というのが本作の魅力。
スタイリッシュな映像
とにかく映像がスタイリッシュです!!
冒頭で「シャーリーズ・セロン」の名前がクレジットされる瞬間など、かっこよすぎて痺れました!!あの場面だけでももう一度見たいと思わせるほどのスタイリッシュな映像が飛び出し、本作への期待が嫌が上にも高まりました!!
最大の見所
本作の最大の山場は、延々と10分近く、シャーリーズ・セロンがノーカットで6人の敵を倒すシーンです。
もちろん、ノーカットと見せかけて、どこかでつないでいるんでしょうが、このシーンは実に圧巻でした。
保護対象者は腹を撃たれて死にかけています。敵はこのビルの中に何人いるかわかりません。
まずは銃口が見えた4階へエレベータで上がり…。
銃、パンチ、キック、投げ、あらゆる近接格闘術を駆使し、敵を排除していく様子が、延々とワンカットで続いていくので、観客は圧倒的な臨場感で、現場に投げ込まれたかのような錯覚さえ覚えます。
ビルを脱出してもそのカットはなお続き、クルマに乗り込むと背後から敵が、かわすと前から敵が来ます。クルマの中でも、まるで車内でカメラはドローンで飛んでるかのごとく、ノーカットで後部座席から運転席へと移動し、見る者を圧倒します!!
圧巻のシャーリーズ・セロン
シャーリーズ・セロンは、「デニーロ・アプローチ」で体重を14kg増やして眉毛を全部抜いて、実在の殺人鬼の売春婦を演じた「モンスター」でアカデミー賞を取ったオスカー俳優でありながら、最近はアクションものに多く出ています。
あまりの美貌と完璧なスタイルのため、悪役も多いのが特徴。
特に「プロメテウス」では監督のリドリー・スコットから、「アンドロイドか人間かわからない感じで演技してくれ」と言われたらしく、最後まで、彼女の役は人間なのかアンドロイドなのかわからずじまいでした。
それもあの完璧なスタイルがあればこそ、その演出も可能だったわけで。
最近では「マッドマックス 怒りのデス・ロード」の、隻腕の女戦士フィオロサ役は強烈で、全世界から絶賛されていたのは記憶に新しいところです。
近接格闘術を得意とする女スパイ・ロレーン・ブロートンもまた、彼女以外は演じられない、ハードボイルドな主人公です。
怪優・ジェームズ・マガヴォイ
シャーリーズ・セロンと並んでもう1人の主役・パーシヴァルを演じるジェームズ・マガヴォイ。
一応、MI6の西ドイツ支局長ですが、ヤク中かと思うくらいに常にハイテンションで、仕事のためなら西でも東でも見境なく接触し、情報を入手し、自分の都合のいい側につき行動する、謎の多い人物。
ベルリンの壁が崩壊するという世界情勢の中で、そのベルリンの真っ只中で生き、混沌としたベルリンを愛し、ベルリンのために生きた諜報部員。
「スプリット」で24人格を演じたジェームズ・マガヴォイが、またとんでもない怪人物を堂々と演じています。
STORY
1989年11月、ベルリンの壁、崩壊直前の東ドイツで、西側の諜報員・ガスコインがKGBのバクティンに殺される。死の直前、ガスコインはつぶやく。
「サッチェルが裏切ったんだな…」
ロンドン
ロンドン、MI6本部の小さな取調室。顔中アザだらけの女諜報員・ロレーン・ブロートンは上司のグレイと向かい合っている。その横には、なぜかCIA長官カーツフェルドもいる。
重々しい雰囲気の中、グレイが口を開く。
「さあ、ベルリンで何があったか話してくれ」
ロレーン始動
MI6長官「C」と主任のグレイから、諜報員・ロレーン・ブロートンが、ガスコインの手から奪われた機密リストの奪還と、謎の二重スパイ・サッチェルの逮捕の命を受けてドイツへ飛ぶ。
しかし到着と同時に命を狙われるロレーン。車中で2人の男をなぎ倒し、MI6のドイツ担当・パーシヴァルと合流。パーシヴァルはベルリンという街に酔いしれ、仕事のためならなんでもするような男であった。
パーシヴァルはガスコインにリストを渡した人物と接触。東の諜報機関で働く彼は「スパイグラス」と呼ばれ、西への亡命を希望していたが、ガスコインがリストを奪われたため亡命できない。しかしスパイグラスは言った。
「リストは暗記している」と。
ロレーンは行く場所すべてに敵に待ち伏せされている状態。その度に得意の近接格闘術で相手を倒すが、明らかに情報が漏れている様子。
謎の女
ドイツ到着以来、カメラ片手にずっと彼女をつけていた女は、フランス情報部DGSEの女スパイ・デルフィーヌであった。初仕事で緊張している、と正直にロレーンに白状するデルフィーヌ。ロレーンは女同士でありながら、彼女と激しくセックスをする。
デルフィーヌと心も体も許し合ったロレーン。デルフィーヌは彼女に耳打ちする。
「パーシヴァルには秘密があるの。彼、実は…」
ロレーンがBGMの音をあげる。誰かが部屋を盗聴していたとしても、デルフィーヌの言葉を聞き取れたのはロレーンだけであった。
パーシヴァル、暴走
ガスコインを殺し、リストを入手したはずのバクティンはKGBには渡さず、より高く買ってくれる買い手を探していた。
KGBからその情報を入手したパーシヴァルはバクティンを殺し、リストを入手する。しかしその事実をMI6には報告しない。
スパイグラス亡命作戦
スパイグラスを西側に亡命させるのは簡単な仕事のはずだった。東側でその日、行われる大規模なデモに乗じて西側へと手引きするだけだった。
ところが情報は漏れていた。パーシヴァルの仕業だ。
KGBの狙撃手がビルの4階に陣取り、デモ隊の中にいるスパイグラスとロレーンを狙っている。
が、ロレーンも手を打っていた。東側の協力者・メルケルの合図で、デモ参加者全員が黒いこうもり傘を開く。
傘が開いたことで、4階にいるKGB狙撃手からスパイグラスが見えなくなった。狙撃できない。
にもかかわらずスパイグラスは撃たれた。
状況を鑑みたパーシヴァルによって撃たれたのだ!!
リストを暗記しているスパイグラスはリストそのものだ、ロレーンの任務はリストを西に持ち出すこと。
逃げるには敵を倒すしかない。ロレーンは腹を撃たれたスパイグラスを連れて、敵が潜むビルに入って行く。
激しい格闘、銃撃で1人、また1人と敵を倒すロレーン。しかし屈強な男を相手にロレーンもフラフラになる。
腹を撃たれたスパイグラスも必死に応戦し、なんとか敵を殺し、ビルを脱出、パトカーを奪うも、敵は今度はクルマで追ってくる。
クルマでぶつかり、銃を放ち、バックで逃げ、あらゆる策を弄してロレーンは逃げる、逃げる!!
が、橋のたもとで停車した一瞬の隙を突かれ追突され、クルマごと川に転落。
スパイグラスの足が大破したダッシュボードに挟まれ外れない。
ロレーンも必死に彼の足を外そうと試みるが、腹を撃たれて弱っていたスパイグラスは、水中であえなく溺死する。
パーシヴァル、さらなる暴走
パーシヴァルは入手したリストを細かくチェックしている。サッチェル、サッチェル…。
パーシヴァルはサッチェルの意外な正体に気づく。
フランスの新米諜報部員・デルフィーヌは、ずっと写真を撮り続けている。ロレーンあてに、彼女に役立ちそうな写真を封筒に入れていると…
背後から忍び寄るパーシヴァル。デルフィーヌの首にコードを巻きつけ、彼女を窒息させようとする。
必死で逃れようとするデルフィーヌ。ナイフをパーシバルの背中に突き立てる。
ロレーンがデルフィーヌのアパートにやってきていた。玄関で彼女の部屋番号を押すロレーン。
デルフィーヌは玄関のボタンを押そうとするが、ナイフが刺さったまま再度、パーシヴァルが背後から彼女の首にコードを巻きつけ、渾身の力で締め上げる。
住人の出入りに乗じ、ロレーンはアパートに侵入、デルフィーヌのドアを蹴破ると…。
デルフィーヌは死んでいた。
そんな…。崩れ落ちるロレーン。
サッチェルの正体
パーシヴァルは隠れ家に戻り、急いで身支度を整えると外に飛び出す。
しかし、クルマのタイヤにナイフが突き刺さり、パンクしている。
次の瞬間、胸部に銃撃を受ける。
ロレーンだ。
断末魔の苦しみに悶えながらも、パーシヴァルは笑う。
「サッチェル…。お前がサッチェルだったとはな…」
ロレーンは冷たく笑う。
「いいえ、サッチェルはあなたよ」
デルフィーヌはKGBと取引しているパーシヴァルの写真を封筒に入れていた。KGBとの取引も、一種の仕事だ。しかしその写真は彼がサッチェルだという証拠としては十分だった。
「オレを殺して、オレをサッチェルに仕立てるのか…」
ロレーンはパーシヴァルの頭を撃ち、殺す。死体から、リストが入った腕時計を引き抜く。
MI6への報告
MI6本部の取調室。MI6のグレイがつぶやく。
「パーシヴァルがサッチェルだったのか…」
「そうよ」
「で、リストは?手に入れたのか?」
ロレーンは言った。「いいえ」
鏡の裏ですべてを見ていたMI6長官・「C」は宣言する。
「この件は闇に葬る」
KGBとの取引
3日後、フランス・パリ。
豪華なホテルの一室で、パーティドレスをきたロレーン。露出している肌は青アザだらけだ。
ウオッカを飲みながら、KGB長官にあの腕時計を渡す。
突然、4人のKGB職員が入ってきて、床にビニールを引く。
「パーシヴァルが死ぬ前に、お前がサッチェルだと報告を受けていた。さあ、お前もプロならジタバタせず、ビニールの上で死ね」
ロレーンは酒瓶を冷やしていた氷の中から銃を抜き出し、全員を射殺する。
喉に銃弾を受け、死にゆくKGB長官に、冷たくロレーンが言う。
「私がリストを渡すと本気で思った?」
「家に帰ろう」
メルケルに送り出され、自家用ジェットに乗り込むロレーン。
そこには…
MI6の取調室で同席していたCIA長官・カーツフェルドが乗っていた。
カーツフェルドが言った。
「さあ、家に帰ろう」
「その言葉を待ってたわ」