3部作完結編
本作は2000年公開の「アンブレイカブル」、2016年公開の「スプリット」との3部作というべきシリーズの完結編となる物語です。
そのため、「アンブレイカブル」と「スプリット」を見ないで「ミスター・ガラス」をみても、なんのことかわかりません。
もし、前2作をみていない方がいらっしゃったら、「ミスター・ガラス」を見る前に必ずご覧になるようにしてください!!
「アンブレイカブル」あらすじ
大きな列車脱線事故が発生し、乗員乗客が全員死亡する中で、ただ1人の生存者となったデイヴィッド・ダン。彼は生き残っただけでなく、かすり傷ひとつ負っていなかった。
イライジャという男が彼に近づく。イライジャは生まれつき身体中の骨が折れやすい体質で、弱い自分を一方の端とすれば、真逆の人間、つまり傷を負わない最強の人間もいるはずだとの信念のもと、そんな人物を探していた。
デイヴィッドは自分が風邪ひとつ引いたことがないことを思い出す。
しかし過去に交通事故でフットボール選手の夢を諦めたこともあった、幼少期にはプールで溺れたこともあった。自分はスーパーマンではないことを知っていた。
しかしイライジャは調査を進め、プロを諦めた事故の真相、プールで溺れた件の真相を突き止め…。
デイヴィッドはついに自分が超人であることを認める。
スーパーヒーローのように活躍を始めたその時…。
彼は恐るべき事実を知ることになる…。
「スプリット」あらすじ
女子高生ケイシーは心に闇を抱え、友人もいない。ある日、お情けで呼んでもらった友人の誕生パーティーの帰り道、2人の友人と共に何者かに誘拐される。
誘拐犯は、潔癖症の男かと思いきや…。
次は女性の格好で、声も仕草も女性として現れ。
その次は9歳の少年として現れ…。
明らかな多重人格者であった。
3人は協力して脱出を試みるが、いずれも失敗。それぞれ別の部屋に監禁されてしまう。
一方、精神科の女医フレッチャー博士はこの誘拐犯・ケヴィンの主治医だが、ケヴィンが女子高生を誘拐していることには気づいていない。彼女はケヴィンの中に23の人格があることを突き止めている。彼女は常にケヴィンに丁寧に接し、彼からも全幅の信頼を得ていた。
しかし24番目の人格「ビースト」の存在には懐疑的であった。誰よりも巨大で強いというその人格は存在しないと考えていた。
しかしビーストは実在した。24番目の人格になった時、筋肉は膨らみ、全身に血管が浮き出て、超人的な力で、誘拐事件の真相を知ったフレッチャー博士を絞め殺す。
他の2人も殺され、ケイシーは銃を手に逃げ惑うが、散弾銃すら跳ね返すビーストになすすべもない。
しかし、ビーストは、母親から虐待を受けたケヴィンを守るために生まれた人格。
ケイシーの体に、叔父から受けた虐待の跡を見つけたビーストはケイシーを逃し、姿を消す。
事件を報道するニュース番組を複雑な眼差しで見つめるのは…。
あのデイヴィッド・ダンであった。
ミスター・ガラス
ミスター・ガラスとは「アンブレイカブル」に出てきた、サミュエル・L・ジャクソン演じるイライジャ・プライスのことです。生まれつき骨が弱く、少しの衝撃ですぐに骨折してしまうことからこのあだ名がついてしまいました。
アンブレイカブルのラストで、実は彼こそ、スーパーヒーローを探し出すため飛行機事故や列車事故を故意に発生させていたテロリストであることがわかり、重度精神病院に入れられるのですが。
物語はその19年後を描いています。
シャマラン版アベンジャーズ
本作はシャマラン版アベンジャーズとでもいうべき内容で。
「アンブレイカブル」のデヴィッド=ブルース・ウイリス、イライジャ=サミュエル・L・ジャクソン、ジョセフ=スペンサー・トリート・クラーク
「スプリット」のケヴィン=ジェームズ・マカヴォイ、ケイシー=アニャ・テイラー・ジョイ
といったメインキャラクターが再度集合していて。
2つの世界が1つに混じっていくところです。
ジョセフよ、よくぞ道にそれずに成長してくれた!!
特に19年ぶりのデヴィッド、イライジャ、ジョセフとの再会はとても嬉しく。
11歳だったジョセフが同じ顔で大人に成長してくれている点は本当に嬉しかったです。
ハーレイくんは…。
「アンブレイカブル」前年に公開された同じシャマラン監督の「シックスセンス」で天才子役ともてはやされたハーレイ・ジョエル・オスメントがどんな人生を辿ったか、世界中のみんなが知っているので…。
ジョセフ役のスペンサー・トリート・クラークは、ハーレイに比べれば見劣りするデビューだったけど、その後の人生は着実に、人として真っ当に過ごしてきたのがわかる様子だったので…。
他人事ながら、ホッとしました。
シャマラン監督自身の出演シーンも繋がる
また、小さな点ですが、シャマラン監督本人が「アンブレイカブル」では麻薬のディーラーとしてデイヴィッドが勤務するスタジアムでたむろしていて、それを見抜いたデヴィッドから声をかけられるシーンがありますが…。
19年後、同じ役でシャマラン監督はデイヴィッドが息子と経営している防犯グッズの店で買い物をしています。
そして本人が「19年前、スタジアムで警備員していなかった?」と声をかけるシーンがあります。
実は「スプリット」にも出てた
それをいうなら「スプリット」にもシャマラン監督は出演しています。フレッチャー博士の助手のジャイという役です。
つまり2000年にはスタジアムで麻薬のディーラーをやっていたジャイが、2016年には改心して精神科の博士の助手になり、2019年には何らかの理由で防犯グッズを買いに来た、という流れになるのでしょうか。
超人か常人か
さて、話が脱線してしまいました。
本作の最大の興味は…。
「アンブレイカブル」も「スプリット」も、誇大妄想狂の人物が産んだ産物だったのか?
という点です。
つまりデヴィッド・ダンもビーストも、実は普通の人間で…。
彼らの行いには全て合理的な説明がつくのか?という点。
合理的な説明
悪を見抜く力
デヴィッドは他人に触れただけで悪人を見抜く能力を持っていますが…。
メンタリストの訓練を受けた人物なら、他人の小さな痕跡からその人物を読み解くことは可能。
壁をよじ登る
ビーストは壁をよじ登り自由自在に動き回りますが…。
ロッククライミングの技術があれば不可能ではない。
弾丸を跳ね返す
ビーストは至近距離から放たれた散弾銃を受けても弾丸を跳ね返しますが…。
かなり前から使われていなかった銃と弾丸、劣化していた可能性もある。
など、前2作で起こった超常現象を、あたかも現代科学で解明できる現象であると説明するシーンがあります。
デヴィッド・ダン本人ですら、そしてケヴィン本人でさえ、新たな女医・ステイプル博士のこれらの診療により、自分たちが超人だと思っていたことは間違いだったのか、と考えを改め始めます。
ミスター・ガラスの恐怖
一方、ミスター・ガラスことイライジャは…。
ずっと投与されている薬のせいで、終始ぼんやりとした表情を崩さず。
まるで廃人のようになっています。
しかし実はこれこそ彼の演技で。
その超人的な頭脳で何度も拘束されている部屋から抜け出し、投与されている薬をすり替えていたのでした。
この辺りのサミュエル・L・ジャクソンは、本当に車椅子じゃないと生活できないんじゃないかと思わせるほどの弱々しい演技が秀逸です。
そしてその弱さの中にも狂気的な凶暴さを孕み、逆襲に転じる様は見事。
悪の結託、正義の集合
ミスター・ガラスはビーストと結託し、拘束されている施設からの脱出を試みます。
ケヴィンの身を案じるケイシー、父・デイヴィッドの身を案じ、そしてケヴィンに対するある重大な秘密を知ったジョセフ、そしてイライジャの身を案じるイライジャの母は女医ステイプル博士のもとに集います。
壮大な肩透かし
そして物語の前段から、何気なく紹介されている、もうすぐオープンする巨大ビル・その名もオオサカ・タワー。
ラストの舞台はこのオオサカ・タワーに間違いない。
ラストはデイヴィッドとビーストの最終決戦が、世界中のマスコミが集結しているこのオオサカ・タワーにおいて、壮絶に繰り広げられるに違いない。
観客は全員、そう思い込みますが。
実はぜんぜん違っていて。
最終決戦は、精神病院の前の広場で行われるのでした。
思えばシャマラン監督、「サイン」において宇宙人に地球が侵略された時も、世界規模の混乱などはいっさい描かず、ずっと主人公の家の中のみを描いていて。
SFパニックみたいなあんな世界を描くことは苦手としているはずで。
観客に、まるでアベンジャーズのようなクライマックスが来ると予想させておいて…。
あえての肩透かしを食らわせるのでした。
予想を超えたどんでん返し
しかし、そこで待っていたのは、シャマラン流のどんでん返し。
予想もしなかった真の悪の存在でした。
そしてさらに、そのラストさえ覆す、もう一つのどんでん返しが待っていて。
ラスト30分はアレヨアレヨというまに終わってしまいました。
ラストは、
今後どうなるかは、皆さんで考えてくださいね
的な終わり方で。
快刀乱麻といったスパッとしたラストではなかっただけに。
かつてのキレのあるラストを期待した身としては、ややモヤモヤが残るラストでしたが。
シャマラン監督の世界観が好きならば、絶対に見て損はない一本です!