エドガー賞受賞の原作
あまりにも面白い!と思ったら、本作の原作は2013年にエドガー賞を受賞した作品であるそうです。
エドガー賞というのは、アメリカ最大の推理小説のクラブ「アメリカ探偵作家クラブ(Mistery Writers club of America)」が選ぶ、優秀な推理小説(広義のミステリ)に送られる賞で。
その中の、「ベスト・ファースト・ノベル賞」を受賞した作品だそうです。つまり処女作。
レッド・スパロー (上) (ハヤカワ文庫 NV) | ||||
|
レッド・スパロー (下) (ハヤカワ文庫 NV) | ||||
|
書いたのは、33年間、実際にCIAで情報収集を行なっていたらしい方で。
ですので、描かれている世界は007やミッション:インポッシブルとは違います。派手なアクションやカースタントなどは一切なく。
普通の若い女性が、いかにしてスパイになって行くかが、リアルに描かれています。
ジェニファー・ローレンスがこれほどスゴい女優とは!
主人公・ドミニカを演じるのはジェニファー・ローレンス。
X-MENやハンガー・ゲームなど、SF活劇もののイメージが強い彼女ですが、オスカー受賞経験のある演技派。とにかく、彼女が凄いの一言です。
監督が「ハンガー・ゲーム」シリーズの監督なんで、気心が知れている、という間柄なのかも知れません。
驚きのオープニング30分
①芸術的バレエシーンで
美しい、バレエのシーン。
ジェニファー・ローレンス演じるドミニカが踊るバレエシーンではまさか何も起こらないだろう。
↓
男性ダンサーにスネを踏まれ、腓骨が真っ二つの大事故!
不運
不運なドミニカ…。
↓
実は、男性ダンサーと、彼女の後釜を狙うバレリーナが仕組んだものだった!
ドミニカ、どうする?
可哀想なドミニカ…。
↓
2人でいるところを、鉄パイプで半殺し!
情報局へ
その後、情報局の叔父を頼って行くと…。
彼女がプリマドンナ時代に、彼女のファンだった政府高官に近づき、スマホをすり替えろ、との指示が。
たぶん、男女の関係になるだろう、と覚悟を決めては行くものの…。
ハニートラップのはずが
半ば強引に襲われます!
↓
第三の男が出現、高官のノドをバッサリと切り裂き!
え?え?スマホをすり替えるんじゃないの??!!
と、わずか30分の間に4つも予想と真逆の展開が繰り広がり、もうスクリーンに釘付けになります!!
このオープニング30分の間の緊張感はとてつもないもので。
超一級のスリラーの予感がビンビンとします!
第4学校
政府高官の暗殺現場を目撃してしまった彼女を、粛清せよと言う声もある中。
情報局副局長の姪、と言う立場もあり、彼女はスパイ養成学校に入れられることになります。
その名も第4学校。
のちのドミニカはそこを「娼婦養成所」と呼びますが。
そこは、敵の欲望を見抜きコントロールすることを学ぶ学校。
直接的なシーンはあえて描かず、観客に想像させ、この学校のおぞましさを印象付けます。
強い緊迫感
この学校で、ジェニファー・ローレンスは何度もヌードシーンが出てきますが。
彼女が脱ぐときは常に、「ヤルか、ヤられるか」と言う緊張感溢れるシーンであり。
極めて緊迫感の強い演出なのでした。
美しかったシャーロット・ランプリングが醜い
ちなみに、第4学校の監察官を演じているのはシャーロット・ランプリング。
「愛の嵐」で見せた美貌は、たぶん、世界三大美女の1人だな!と若い頃、僕は思っていました。
変態的な欲望でさえ、まるで高校生に英語を教えるようなテンションで淡々と教えて行く、退廃した人格を演じます。
かつての美貌は影を潜め、忌まわしい学校で、常識のタガが外れたかのような人物を好演しています。
ハニートラップ、なんて軽い言葉では言い表せないような、欲望を利用したスパイを作る様子が、極めて緊張感あふれる中で描かれていきます!
ドミニカの本意がわからない!
彼女の任務は、ロシア情報局からCIAに情報をリークしている内通者の名前を聞き出すこと。
CIAのナッシュに接触するわけですが。
彼がブロンドが好きと見るや、すぐにブロンドに染め。
セクシーな水着でジムのプールを闊歩。
しかし彼はすでに、髪を染める前から彼女が自分を尾行していることに気づいている切れ者。
しかし彼女も、意図的に与えられた偽名ではなく本名をジムの会員証に記入し、自分が女スパイであることをCIAにバレ易くします。
この辺りの駆け引きも緊張感にあふれ。
彼女がなぜ、わざと本名を書いたのか。
CIAはあっという間に彼女がスパロー(スパイ)であることを見抜きます。
それこそが彼女の意図なのか?
最初から、彼女は2重スパイになるつもりだったのか?
あるいは、そうやって敵の懐に入り込む作戦なのか?
そのあたりの彼女の意図が見えず、観客もCIAも翻弄されます!
ロシア情報局の恐怖
ブタペストでルームシェアする女性も同じくスパロー。
ルームシェアのスパローは、ある理由でロシア情報局に殺されるわけですが。
浴槽から部分的に見えている遺体は、ところどころ生皮が剥がされていて。
とてつもない拷問のあと、殺されたことがわかります。
この恐怖がのちの伏線に…。
叔父を利用
ドミニカは殺されたスパローに変わり、彼女が入手していた情報源「スワン」に接近、「スワン」はCIAの情報を持ち出し、ロシアに売ろうとしていたのでした。
ドミニカはその情報をもらったと見せかけ、CIAに彼女の身柄を引き渡すはずが。
CIAの失態で「スワン」がそのことに気づき、狼狽したスワンはトラックにはねられ死亡。
彼女の身柄はすぐに本国に強制送還、拷問にかけられます。
関係なかった彼女の上司が先に殺されていて。
彼女も間違いなく殺される、という中で…。
なぜか彼女は殺されず。
情報局副部長の姪、という立場が、かなり有利に働いている様子で。
彼女の叔父は、おそらくは、彼女をずっと「女」として見ていたわけで、彼女はそれすら利用していたのでした。
愛するナッシュを拷問
CIAのナッシュと彼女は恋仲になっているのですが、それすら本当なのかどうなのか。
ズタボロになりながらブタベストに戻った彼女は、ナッシュと激しい一夜を過ごすのですが…。
目覚めると、あの恐ろしい暗殺者が、ナッシュを椅子に縛り上げ、ノドをグイグイと締め付けている!
途端に彼女の目が冷めた光になり。
愛していると思わせた男が殺される手伝いを始めます…。
恐ろしい…。愛し合っていると思ってたのに、それすらウソだったのか…。
内通者の名前を吐くように、暗殺者が拷問を始めます。
「内通者の名前を言え。言ったところで苦痛をゆるめたりはしないがな」
恐ろしいセリフとともに、ナッシュに拷問を開始…。
苦痛で泣き叫ぶナッシュの両手・両足はドミニカによって縛り付けられ動かない…。
全観客の息が詰まる!
この拷問のシーンの恐ろしいこと、恐ろしいこと!
映画館にいた全観客が凍りついているのがわかりました!
ドミニカは暗殺者から器具を借り、彼女自身がナッシュを拷問するのですが…。
一瞬の隙をつき、暗殺者を殴打!
自分が縛ったロープを切り、ナッシュを解放し、暗殺者を殺します!
映画館全体が、
「ほぉ〜っ」
と、するのがわかりました…。
最後まで予想の裏をかくドミニカ
やがて、自ら姿を現す内通者。
ロシア情報局の長官本人こそが内通者なのでした。
「私を情報局に売れ。そして局の信頼を勝ち得て、今度はお前が内通者となるのだ。私の死を無駄にするな」
この、長官の命をかけた提案を受けて、彼女が下した決断は…。
長官ではなく自分の叔父が内通者であると工作するのでした。
最後の最後まで、予想の逆を行くストーリーと、極めてリアルに描かれるスパイ戦の世界。
欲望を利用し敵のフトコロに入り込む物語で、ジェニファー・ローレンスのヌードがいたるところに出まくりながら。
いやらしさなど微塵も感じる隙がない緊張感とスピード感溢れる演出は見事でした!
デート・ムービーには適していないと思いますが!
スリラー、サスペンス、ミステリー好きには最高に面白い作品です!