前回まで:
女性のみなさんにお聞きしたいのですが、温泉旅館など、部屋とは別に大浴場がある場合、夜は何時くらいまでなら入浴されますか?
お方さまは、夜、遅くなると大浴場は怖い、ということで、夜9時を回ると別になってる浴場には行きません。
ホテルオーレ、昨夜は23時に到着。僕1人、クタクタな身体を大浴場に浸してから就寝した。
おかげでグッスリと眠れ、翌朝には疲れは残っていなかった。
お方さまも同じくグッスリ眠れたようだった。昨夜は入浴しなかったので、朝食前に大浴場に行くお方さま。
スッキリして戻ってきてから朝食へ。
バイキングの種類も豊富で、食べ過ぎてしまいそうなところをぐっとこらえる。この後は生シラス丼を食べる予定だ。
▼僕にしてはとても控えめな朝食。
ホテルオーレ。空間を贅沢に使った、ハイセンスなホテル。清潔感にあふれ、部屋もゆったり。朝食付きでツインで9000円は信じられない安さだ。
▼ホテルオーレの、綺麗で開放感あるロビー。朝食付きでツインで9,000円は嬉しかった。
この旅で1番豪華で、1番安いホテルだった。
チェックアウトの時、フロントにロボットのペッパーがいたので、少し喋ってみた。
オレ:おはよう!
ペッパー:…。
オレ:おはよう!
ペッパー:…。
フロント係:あっ、目が青くなって、クルクル回った時じゃないと、音声認識しないんです!
オレ:(そうなってることを確認し)おはよう!
ペッパー:…。
オレ:おはよう!
ペッパー:…。終了シマス!
オレ:えーっ?!
ペッパーとは相性がわるかったが、ホテルオーレにはとても満足だった。藤枝市にお泊まりの際はぜひ、オススメです!
さて、焼津漁港近辺に「焼津さかなセンター」なる施設を発見。魚介類のお店が一堂に会し、お食事処もある、大きな港町によくある商業施設とみた。さっそくナビをセット。10分程度で到着。
睨んだ通りの施設だ。食堂だけでもとても広い。お目当の生シラス丼もあることを確認。
観光バスがたくさん停まっている。
食堂とは別の建物にお土産のお店が集まった建物がある。そこに入ると…。
無数のお店に、1人ずつ係の人がいて…。
激しい客引き合戦。平日だし、客が少ないので、まあ仕方ないか。
「これ食べていって!これ食べていって!」かたや、試食で釣ろうとする。
「これね、1パック600円やけど!2パックで1000円でいいから!もっていって!」かたや、値段で釣ろうとする。
よく見ると、値段パターンはどの店も同じだった。どの店も、釜揚げシラスは1パック600円と書いてあるが、どの店も2パック1000円で良い!と叫んでいた。
「観光客プライスやな!」
お方さまが吐きすてるように言う。
「『天ぷら』(価格を高めに設定すること。たいていの場合、客の眼の前で価格を下げ、お得であるように思わせる)やな」
僕も同調した。
他店より桜エビを安く売ってた店の、となりの店が、
「古い桜エビは、色でわかる」
と、暗に隣の安い桜エビが古いものであるとディスったところで、我々はこの「焼津さかなセンター」に見切りをつけた。
「まあ…。商売やからしかたないけどな」
と僕が言うが、お方さまは明らかに、このセンターがお気に召さない様子であった。
「観光バスが大量に停まってる点で、すでに気に入らん。バスは有無を言わさずセンターに停まる。センター側は努力もせず大量の客を手に入れる。お店の人、客は買って当然って顔してた。値段つりあげても観光客にはわからない。これを『胡散臭い』と言うねん!」
お方さまがバッサリと切り捨てた。
「観光業界にゴマすって、バスを停めてもらうよう交渉するのは企業努力じゃないの?」
「ベクトルがお客さんの方に向いてない。大仏商法(編集部注:奈良には大仏があり、労せずして観光客が大仏を見に来るため、努力をしない奈良商人の姿勢を表す言葉)と一緒や。どうしたらお客さんが喜ぶか、どうしたらお客さんが納得してくれるか。それが企業努力や!」
さすが小売業界が長いお方さまだ。これほどどこかを嫌うのも珍しい。
食事、で検索したところ、小川魚河岸食堂、というお店がヒット。漁港内にあるようで、口コミも高得点。
さっそくクルマを走らせるが…。
なんと!10月は火曜日が定休日、の看板が!今日はその火曜日、お店は閉まっていた!
それを知らず、続々とクルマがやってきていた。よっぽど美味しい店なんだろうな!実に残念だ!
「うみえーる」という施設に行ってみた。小規模だが、お土産ものを売っている。さかなセンターのような驕りは見えない。良心的な匂いがする。
2階の「まぐろ茶屋」という食堂へ。生シラス丼の量も、さかなセンターより1.5倍はあると見た。
そこで食事に決める。大量の生シラス、大量の生桜エビ。美味しくてお腹いっぱいになった。
道すがら、魚屋さんを見つけていた。お方さまが気になるというので寄ってみる。
入り口は小さいが、奥が予想以上に広い!店というより、市場と言った方が近い。
生シラスが、なんと1パック400円?!
生桜エビ、山盛りパックで900円?!
イワシのみりん干し、3枚で350円?!
さかなセンターではその倍はしていた…。
しかも素人目に見ても、さかなセンターより新鮮だ。
ふと見ると、「予約品」と書かれた、尾頭付きの立派な鯛が2尾、焼いて置いてある。
地元の人が、自分達のお祝いのために、尾頭付きの鯛を購入する魚屋さん。
これぞ!地元民に愛されている証拠だっ!
▼ピンボケごめんなさい。近所の人が、鯛の尾頭付きを予約する店ほど、良店の証ってないのではないだろうか。
お店の名前は「前田鮮魚本町店」さん。インターネット的な口コミはゼロだが、文句無しに満点をつけられるお店。
僕たちはそこで大量に買い物をした。最後の最後で、いい店に出会えた。
高速に乗る前にコーヒーを買おう。LAWSONに入った。
レジの横にエヴァンゲリオンのグッズが置いてある。各200円。
「あれ?これってクジの景品じゃないの?」と店の人にきくと、
「そうなんですが、クジの期間が終わって、残ったので、200円で売ってるんです」
エヴァは静岡で戦うシーンがあり、劇中LAWSONも出てくる。だから静岡のLAWSONでは景品をいっぱい置いていたのだろう。
エヴァンゲリオンの敵キャラは「使徒(しと)」と言い、極めてシュールな外観だ。人形も200円。
「使徒」と「靴下」をかけて、「くつしと」という、使徒が柄の靴下も200円。
靴下200円は普通に安い!
人形とくつしとを800円分購入!
さあ!高速に乗る。
そして、この高速を降りるとき…。
旅も終わるのだ。
「パン!パン!パン!パン!
デンデン!
パン!パン!パン!パン!
デンデン!」
エヴァンゲリオンの戦闘シーンの音楽をお方さまが口ずさみはじめた!
「♫パーパーパパパーパパッパッパ
♫パーパーパパパーパパッパッパ〜」
口ずさみながらさっきの人形を僕の前にチラつかせる!
「使徒きたで!はよエヴァンゲリオン出撃して〜!!」
無視を決め込むと、へこたれずに続ける
「♫パーパーパパパーパパッパッパ
♫パーパーパパパーパパッパッパ〜
♫パーパーパパパーパパッパッパ〜」
使徒人形を2匹だしてきた!
それでも無視を決め込むと、自分のiPhoneを取り出し、動画モードで録画をはじめた!
「♫パーパーパパパーパパッパッパ
♫パーパーパパパーパパッパッパ〜
♫パーパーパパパーパパッパッパ〜」
iPhone前に人形をかざしながら録画!
無視を決め込むと、こんどはそれをfacebookにアップし始めた!
ヒマかっ?!
映画は死ぬための旅だが、僕たちは再生を願って旅に出た。
ふと気づくと、お方さまが黙りこんでいた。
「どうした?」
「…。…。終わってまうわ…」
お方さまが、寂しそうにつぶやいた。
「…そうやな」
「まだ、2日くらいしか、遊んでないみたいやのに」
「もう5日も、遊んだよ」
「おもしろかったか?ずっとこの旅を楽しみにしてたもんな!」
「おもしろかったよ!麗子は?!」
「うん、おもしろかった!」
お方さまは少し寂しそうに、さっき遊んだ使徒人形を、丁寧に箱に戻していた。
「…あのさぁ…」お方さまが言った。
「うん?」
お方さまが、小さな声でつぶやいた。
それを聞いて、僕は、とても心があたたまる思いがした。
高速道路は夕闇が落ち始めていたが、まだまだ、明るさを失ってはいなかった。
それはちょうど、僕たちのようだった。
(完)