手際の悪い見栄っ張り
そもそもはちみつレモン(正確にはレモンのはちみつ漬け)は、親戚から大量にもらったはちみつを消費する一環としてお方さまが思いついたものであるが。
そこには彼女なりのこだわり、のようなものがあり。
①
まず外の皮を徹底的に剥く。これは皮に付着した農薬などを嫌うランナーもいるため、安心してひとくちで食べてもらうため。
②
こうしてひとくち大にカットしたレモンを
③
たっぷりのハチミツに漬けるが…。
④
毎日かき混ぜて満遍なく浸かるように注意している。これを4日くらいつけて完成。
要は、とても時間がかかる。
お方さまは丁寧ではあるが段取りが悪いので、とても時間がかかる。
ぶどうを買って、水洗いして、器に出しておけばいいものを、
ここまで徹底してこだわって出すには、理由がある。
お方さまは…。
見栄っ張りなのだ。
他でこんなん、見たことないぃ〜。
って言われたいのだ。
愚かな人格である。
そのため、やっと応援ポイントにたどり着いても、このはちみつレモンの準備に忙しい。
ゴミの処分、
残ったハチミツの処理、
なども、
ウワァ〜!!さすが丁寧〜
って言われたいのだ。
そのため、あれこれあれこれ準備する。
結局、本末転倒となり、応援に集中できない。
せっかく、絶好の応援ポイントを確保できても、
長時間、彼女が準備のために席を空けるので、
あっという間に後から来たヤツらに横入りされ、
いざ準備ができても、不本意な場所でしかそれを提供できない、
といった悪循環。
夫婦喧嘩
そのお方さまが…。
奈良マラソンで、お味噌汁を提供しようと思ってる
と言ったとき…。
僕はついに、彼女をマジモードで怒鳴りつけてしまった!!
いい加減にしろ!!
はちみつレモンにお味噌汁だと?!お前の悪い段取りで、どんだけ時間がかかると思ってる?!前回の神戸も大阪も、ぜんぜん走路に向かってる時間ないやん?!
火も使うつもり?!じゃあテーブルにコンロ乗せて?!味噌汁温めて、同じテーブルに置いて?!
万一、足腰が不安定なランナーがテーブルに体重をかけてコンロが倒れ、火がむき出しのランナーの足にあたりでもしたら?!
ドンくさいお前に、とっさの対応ができるか?!
相手にヤケドでもさせたら、「ごめんなさい」じゃ済まないんだぞ、そこまで考えてるのか?!
僕は烈火のごとく、お方さまを叱りつけた。
彼女はシュンとして。
それなら…。お味噌汁はやめる
と悲しそうに言った。
その夜。
僕はなかなか寝付けなかった。
お方さまは愚かで、段取りが悪く、先を見通す力はなく、ただ見栄っ張りだ。
そして、それをフォローするのが僕のつとめだ。
僕はお方さまをフォローするために、神様から命を授かったのだ。
翌朝、僕はお方さまに言った。
きのうは怒ってごめんね。
コンロは、メインのテーブルとは別に小さなテーブルを買おう。テーブル(小)にコンロだけ置いて、テーブル(大)にお味噌汁を置けば、コンロが倒れる心配はない。
また荷物が多くなるからカートを買おう。
だからお味噌汁を提供したいなら、俺も応援するから、やってみよう。
お方さまはそれを聞いて、
考えてみる。
と言った。
結局…。
出汁入りお味噌とかじゃなくて、白菜、玉ねぎの出汁が効いた本格的なお味噌汁にしたい!!
具はにゅうめんを入れる!!さが桜マラソン走った時、にゅうめん入り味噌汁がめっちゃ力になったから!!
と、完全にやる気モード。
白菜、玉ねぎを細かく、細かく刻み…。
お味噌を白味噌3、普通味噌を7、の割合で入れ。
4リットル分、それを煮込んで…。
野菜は取り出し。
味見して。
確かに美味しい。が…。
ランナーにはもう少し濃い味付けが良かろう。
なるほど。
こうしてお味噌汁は完成した。
4リットルのペットボトル(以前飲んだ、4リットルの焼酎の空きボトル)に入れ。
準備は整った。
そして当日。
例年は寒さが厳しい奈良マラソンだが、
この日は暖かく。
味噌汁は人気ないのでは、と懸念されたものの…。
ランナーからは、
美味しい〜〜!!
の連発をいただき。
特にこちらのランナーさん、たまたまおにぎりを持っていたので、この場でおにぎりと味噌汁を食べて、元気になっていました。
味噌汁人気に、供給が追いつかない
こうして味噌汁は人気のうちに、早々に品切れ。
はちみつレモンもなくなり。
お方さまの準備物はすべてカラになった。
お方さまの憂鬱
関門が閉じ、ミッションが終わり。
カートにコンロやテーブルを乗せ、クルマに戻る。
さぞや、お方さまから満足の言葉が出る、と思いきや…。
お味噌汁は…。アカンな。
と意外なセリフが飛び出した。
え?!ランナーからめっちゃ好評やったやん!!すぐなくなったし。
と僕が言うと…。
好評かもしれんけど…。かかった手間に見合ってるかと言うと、疑問や。
…。確かに。ものすごい手間やったからな。
液ミソ、やったらお出汁も入ってる。お湯に溶かしたら終わりや。
そんなんがあるんや。
それにこれらを運ぶために…。
カート=1万円、テーブル小=5千円
私のわがままのために不要な出費までした。それに見合ってるかといえば…。
見合ってたって!!こんな美味しい味噌汁は初めてって言うランナーもおったやん!!出費もしれてるし、カートもテーブルも、今後も使えば減価償却できるって。
…。そうかなあ…。
まあ今後、液ミソで負担の軽減を図るのはいいかもしれんが、今回の味噌汁はとても感謝されてたよ!!
…。そうかなあ…。
そうやって!!
こうして僕は憂鬱に暮れるお方さまを励まし続けた。
家に帰りつく頃には、彼女は元気を取り戻していた。
そして次の日…。
今度はさエイドで、アレしたいねん…。
な。なに??
牛串!!