ランナーは24時間テレビマラソンをどう見ているか
ブログのタイトルにもなっている通り、僕は長距離走を趣味としています。
そんな趣味を持つ人たちは、毎年、必ずある24時間テレビのマラソン企画をどう思っているか、というと…。
だいたい、想像できるとは思いますが…。
大多数のランナーは、無関心、というスタンスです。
テレビでマラソンの中継や、ウルトラトレイルのドキュメンタリーなんかがあれば、ほとんどの人が録画し、何度も何度も見返す人が多いのですが、24時間テレビのマラソンはまったく別物。
24時間テレビに対し、まことしやかに囁かれている、チャリティー番組でありながら完全にそうとは言い切れない側面などが、スポーツを愛する純粋なランナーの心には響かないのだと思います。
24時間で100km…
また、マラソン企画では特に、「感動、感動」「涙の完走」といった演出がこれでもか、となされますが、24時間で100kmなど、大金を積まれれば、その気になれば誰でもできる芸当。
普通、100kmマラソンの制限時間は13時間〜14時間。
24時間テレビのマラソンも大抵は100km前後を走るので、要は、普通の100kmマラソンよりも10時間も長く時間設定されています。
にしおかすみこさんは100kmサブ10ランナーらしいので、彼女をランナーに選べば10時間で武道館に帰ってきてしまいます。たぶん、ニコニコ笑いながら。
ちょっと待って!走る芸能人は、100kmなんて一度も走ったことがない人ですよ?!って声が聞こえてきそう…。
そうなんです、問題はまさにそこ。
100kmどころか、フルマラソンさえ走ったことのないような芸能人を連れてきて、いきなり100km走らせる、その無謀さ、無茶苦茶さ。
数ヶ月間、プロのトレーナーがつきっきりでレクチャーするんでしょうが、そういうのを付け焼き刃と言います。
ほとんどの24時間ランナーは後半ただ歩いているだけ。しかも、芸能人として最低限の、笑顔や、お笑いの芸の一つも繰り出せず、疲労困憊した表情であればあるほど良し。
汗と、苦痛に歪むその顔を大写しにして、感動、感動、を押し付けてくるその演出姿勢に、本当に走ることが好きな人たちはうんざりしています。
「素人がいきなり100km走れば足が痛くなって当然だよ」と。
仕事としてのこの企画なら
ただ、走ることになる芸能人としたら、仕事なんで、仕事を引き受けているだけ、というスタンスでしょう。
あの仕事でいくらもらえるのかは知りませんが、けっこうな額らしいときいたことがあります。
24時間かけて100kmを走り/歩きして、全国に顔が売れて、お金もがっぽり入るのであれば、その仕事は受けるべきでしょう。
個人事業主としての彼らの判断は間違ってはいないかもしれません。
スポーツマンシップ
ただし、その姿勢にスポーツマンシップはかけらもありません。
「スポーツマンシップの欠如」。マラソン好きな人たちが、24時間テレビマラソンを黙殺するのはそういった理由からではないかと思われます。
今年のブルゾンさんは…
今年のランナーはブルゾンちえみさんで。
初めて彼女のネタを見たときは笑い転げました。元旦の深夜でしたでしょうか。
「学生時代、陸上部の長距離の選手」という経歴らしく、ネットで調べて見ると、確かに3,000mで岡山県の7位になるなど、優秀な選手でいらしたようです。
マラソンやウルトラマラソンを走ったという経歴は見当たりませんでしたが、陸上の経験者らしく、走るフォームはとても綺麗で、ずぶの素人とはまったく違う、力の抜けた走り方でした。
彼女なら、ある程度、レクチャーを受け、しかも制限時間が24時間もあれば、未知の距離・90kmでも(ズルなく)完走することは可能だろう…
そう思える潜在能力を見せられました。
例年通り、ぴったり到着
24時間テレビ自体、見ておりませんが、彼女が時間内に完走した、ということはネットニュースで知りました。しかも時間ぴったりでゴールに到着した、とのこと。
もちろん、ぴったりに着くような演出をなされて、彼女はそれに従っただけでしょうけど。
「ああ、またいつものパターンね」とうんざりしながらそのニュースを読んでいました。
ドキュメンタリーを見ながら…
VIP中のVIP
その翌日に放送していた、24時間マラソンのドキュメンタリー的番組を、ザッピングの途中でちらりと見たんですが…。
そこでの、ブルゾンさんの、元・陸上選手らしい一面を見て、なんとなく救われたような気持ちになりました。
日本屈指のテレビ局の看板番組の、彼女はいわば主役。当日の彼女はVIP中のVIP。当然、彼女へのケアは最高級のものです。
彼女の周りには、10人近い伴走者。ペースを確認する者、速度を落とすようアドバイスする者、メインの伴走者の指示を別部門に伝える者…。
毎年そうでしょうが、とんでもないチーム編成です。
彼女がレストポイントに到着すると、全てが整っていて、マッサージから、アイシングから、食事、蚊取り線香、とにかく至れり尽くせり。
これまでのペースなどから、何分休憩するか、などを計算する係、GPSでの現在位置を把握し、最適のルートを決定する係…。
何十人、何百人というスタッフが、たった1人のランナーのために連携している…
もはやスポーツとしての側面は微塵もなく、巨大な「プロジェクト」。
マラソン好きが見ていて、気持ちがいいモノではありませんでした。
真摯な一言
チャンネルを変えようとした、そのとき…
ブルゾンさんがもらした一言で、なんとなく、救われたような気がしました。
「本当にこんなのでいいのか、って思う、アタシは、時計一つしていない」
この状況に、陸上経験者である彼女がもらした疑念。
普通なら、時計もしていないランナーが、制限時間のある中で(いくらその制限が長すぎるとはいえ)規定のある距離を走ることなどできるはずがない。
この恵まれすぎている環境に、彼女は不安、というか疑念、を覚えていました。
至れり尽くせり状態への疑念
彼女は、今年の元旦のネタ見せ番組で当然ブレークした芸人さん、まだ売れてから8ヶ月くらい。
そういう意味で、彼女はまだ、心の何処かに、素人だった頃の気持ちを残しているのかもしれません。「この扱いが当然」とは思っていない、真摯な気持ちが。
陸上部時代はきっと、時計をはめ、自分で時間を設定し、ペースを決め、時計とにらめっこしながら走り、ポケットに入れたエネルギージェルを摂取し、走りながら水分も摂取し、つまり、全てを自分1人で行いながら走っていたのでしょう。
それに比べて、今のこの恵まれすぎている状況…
これがマラソンと言えるのか…
彼女は純粋に、そう思ったのだと思います。
ランナーが感じていた違和感
奇しくも彼女が指摘した、この「至れり尽くせりすぎる環境」も、僕たちマラソン好きが24時間テレビマラソンに感じていた違和感の一つだったのだ、と気づきました。
通常の大会ではありえない、あの至れり尽くせり具合。
もしかしたら、どこかに「やっかみ」な部分もあるのかもしれませんが…
もはや、あの状況は、自分たちがしている「マラソン」とはまったく別物。
あの状況を、「マラソン」と呼んでほしくない。
僕たちランナーは、ずっと、そう思っていたのだと思います。
ただ、今年のブルゾンさんは、カメラの前で戸惑いながらそのことを口にされていました。
彼女のその姿勢に、僕は少しだけ、共感を覚えました。
「タイイチ」で走る彼女
彼女は、「タイイチ」と呼ばれるスタイルで走っていました。
おそらくはウエアを提供していたスポーツメーカーさんが、日本でも「タイイチ」を流行らせたいという意図で、このスタイルで走るようリクエストしたのではないか、と思われます。
ブルゾンさん、手足のバランスは決して悪くはないですが、完璧とは程遠い。まだ日本では市民権を得ているとはいえないタイイチ姿、普通なら抵抗があるのでは、と思ってしまいました。
彼女はまだ駆け出しなので、断る、という選択肢はなかったのではないかな、と想像します。
そんなことをいろいろ、想像していたら…。
今年のブルゾンさんの走りは、もう少し、真剣に見ていればよかったかな、と思いました。