監督:リドリー・スコット
主演:ハリソン・フォード
音楽:ヴァンゲリス
美術:シド・ミード
このラインナップは当時としたら最高に豪華なラインナップでした。
というか、かなりミーハーなラインナップと言っていいかもしれません。
リドリー・スコット
監督のリドリー・スコットはこのわずか数年前、「エイリアン」で世界中に衝撃を与えました。それまでは「希望」と「冒険」の舞台であった宇宙空間を、「恐怖」の舞台として見出した感性は驚愕でした。
よく考えれば,真っ暗で、絶対零度、絶対真空の宇宙空間は、恐怖の舞台としてはトランシルヴァニアの古城よりはるかに適しています。でも誰もそこに手をつけなかった…。
その若き天才監督が、再びSF映画を作る、という知らせは、映画ファンにはワクワクものでした。
ハリソン・フォード
主演のハリソン・フォードは当時、スター・ウォーズのソロ船長を始め、直前の「レイダース」のインディ役の大ヒットで大スターになっていました。
ヴァンゲリス
音楽のヴァンゲリスの名前は前年の「炎のランナー」でアカデミー賞を受賞したことで一気に有名になりました。
シド・ミード
シド・ミードの近未来のデザインは、当時、日本のコマーシャルにも使われていました。この後、「機動戦士ガンダム」のデザインにも携わったと聞いています。
とにかく、その時に有名だった才能を集めたラインナップ。期待しないわけがありませんでした。
ところが本作は、公開直後は歴史的な大コケをしてしまいます。この年はスピルバーグの「ET」が公開され、やはりSFとは夢やファンタジーを乗せた冒険の世界、というイメージが強かったのでしょう。
ディストピアを描いた本作は、当時は全く受け入れられませんでした。
SF版 フィリップ・マーロウ
ハリソン・フォードは当時、映画雑誌でこんなコメントをしていました。
「監督は僕に中折れ帽をかぶって欲しいと思っていたが、それは直前に撮った『レイダース』のインディでもうかぶってしまったのでやめになった」
「ブレードランナー」のデッカードは当初、監督の中では中折れ帽をかぶったイメージだったのです。
デッカードのイメージを考え、あるいは、ディストピア的SFワールドに目をつぶった時、本作は極めて
「汚れた街を行く現代の騎士」フィリップ・マーロウの世界観に酷似しています。
レイモンド・チャンドラーが著した、ハードボイルド探偵小説で最も有名な主人公、フィリップ・マーロウ。
マーロウもデッカードも、ロサンゼルス在住。
「タフでなければ生きていけない。優しくなければ生きている資格がない」
マーロウの有名なセリフですが、人間よりはるかに強いレプリカントに立ち向かいながら、弱々しいレイチェルを守ろうとするデッカードは、マーロウの世界観と重なります。
作品の質感からも、作者がマーロウの世界観を参考にしていたことがわかります。
幾つかあるバージョンの違い
公開されたバージョンに対し、その後「ディレクターズカット版」「ファイナル・カット版」など、様々なバージョンが出てきました。
僕は公開されたものと「ファイナルカット」しか見ていません。
公開バージョンにはあった、"デッカードによるナレーション"が「ファイナルカット」にはありません。
公開時は、やや難解なシーンには、デッカードがナレーションで説明を入れてくれていましたが、「ファイナルカット」では全て取っ払われていました。
ラストでレプリカントのロイがデッカードの命を救う場面でも、
「自分が死ぬ直前になり、レプリカントはどんな小さな命でも大切であることに気づいたのかもしれない…」
とレプリカントの謎の行動について説明してくれていましたが、あの説明がないとラストのロイの行動はなかなか分かりづらいものです。
公開時のミスと、それを想起させる今回の謎
実は公開時に、本作は大きなミスをしています。
冒頭で、デッカードに上司のブライアントが今回の任務について説明します。
「レプリカントが6体、地球に侵入したが、1体は死んだ」と。
つまり、デッカードが対処しなければならないのは5体のはず。
しかし、残っているのはロイ、リオン、ゾーラ、プリスの4体のみ。
これは、単純なミスだったらしいです。そのため、後日の別バージョンでは「2体が死亡」とセリフが変えられ修正されています。
このミスに擬態させた、次回作への架け橋『ブレードランナー2022』の謎
新作「ブレードランナー2049」公開を前に発表された、新作への架け橋的な3本のショートムービー。
そのうちの一本、「ブレードランナー2022 ブラックアウト」の中で、実はこのミスによく似た描写があります。
詳細は「ブレードランナー2022 ブラックアウト」についての記事を後日記そうと思っているので、その時に残しておきますが…。
「5体のレプリカントが逃げ出し、6箇所のデータ保管庫を同時に爆破する」
というものです。
もちろん、今回はただのミスではないでしょう。
5体で同時に6箇所の爆破はできません。
では…。
最後の1箇所を爆破したのは一体誰だったのでしょう?
デッカードはレプリカントなのか?
デッカードがレプリカントであるかもしれないことを暗喩している場面は、公開時のバージョンにはありません。
「ファイナルカット」に存在するユニコーンの夢のシーンです。
デッカードは劇中、ユニコーンの夢を見て、ラストシーンで、ガフがユニコーンの折り紙を残して立ち去っています。
レイチェルがレプリカントであると証明した時、デッカードは彼女が見た夢を言い当てました。レプリカントは見る夢さえも当局にハッキングされているわけです。
つまりデッカードが見たユニコーンの夢を、同じブレードランナーであるガフが知っていたことを示しているシーンです。
デッカード=レプリカント、の矛盾
しかしこれには大きな矛盾があります。
レプリカントより弱い
まず、デッカードは弱い。レプリカントは人間の数倍の力を持っているので、リオンやロイと戦った際、肉弾戦ではデッカードは歯が立ちません。
レプリカント判別を生業としてる人間が、自分がレプリカントだと気づかないはずはない
デッカードは新世代のレプリカントで、意図的に力は弱く設計された、として見ましょう。
それでも、VKテストで瞳の動きなどから相手がレプリカントかどうかを見極めるプロが、毎朝、鏡で自分の瞳を見てレプリカントかどうかを判別できないというのはありえない話です。
監督の断言
にもかかわらず、リドリー・スコットは「デッカードはレプリカントだ」と断言したらしいです。
しかし「ネクサス6型」のレプリカントの寿命は4年。
30年後を描いた次回作「ブレードランナー2049」にも登場するデッカード。
デッカードは本当にレプリカントなのでしょうか??
80年代の2019年
1982年に公開されたこの映画。2019年のロサンゼルスを描いていますが、2017年になった現代から見ると、確かに違和感が多いことも否めません。
・たくさんの人物がタバコをふかし、
・紙の新聞を読み、
・公衆電話から電話をして
・パトカーは空を飛び、
・人間をはじめ、人工的に作られた動植物が本物と見分けがつかず、
・一日中、酸性雨が降っている
といったかなり実際とはかけ離れた描写が多いです。
それでもこの未来世界は、我々を惹きつけてやみません。
リドリー・スコットの世界観
近作「エイリアン:コヴェナント」でリドリー・スコットはメガホンを取りました。この記事にも書きましたが、今やリドリー・スコットはエイリアンには興味を失い、人造人間の物語に興味を持っているような印象を受けました。
つまり人間とレプリカントを描く今作こそ、リドリー・スコット監督がいま最も興味があるテーマはないでしょうか。
「ブレードランナー2049」は、ドゥニ・ヴェルヌーヴが監督しています。「ボーダーライン」は見ました、とても良い作品でした。
本作でも彼の手腕はかなり高く評価されているようです。
リドリー・スコット本人の監督作品ではないのが少し残念ですが、35年分の謎が解き明かされるのか、実に楽しみです!!
STORY
21世紀初頭、タイレル社が作った人造人間はレプリカントと呼ばれ、特に「ネクサス6型」レプリカントは体力、知力共に人間を凌駕していた。
レプリカントには安全装置があった。寿命が4年に限られていた。
地球外の危険地帯での奴隷労働から決死の反乱を起こしたレプリカントに対し、特捜警察「ブレードランナー」は発見次第射殺せよとの命令を受けていた…。
2019年ロサンゼルス。
絶え間なく酸性雨が降り注ぎ、飛行可能な自動車「スピナー」が飛び交い、あらゆる人種の人間たちが蠢く、汚れた街。
ブレードランナーの1人、ホールデンが、タイレル社本社で「VKテスト」という、人間とレプリカントを見分けるテストを行っていると、被験者がとつぜん発砲、ホールデンは死亡し被験者は逃亡する。
この事態を受けて、退職したブレードランナー・デッカード(ハリソン・フォード)が強制的に職務復帰させられる。
かつての上司・ブライアントから強引に呼び戻されたデッカードは、6人のレプリカントが反乱を起こし脱走、途中で2名死亡も、4名は地球に潜入したとのことを知らされる。
地球外で反乱を起こした彼らがなぜ地球に戻ってきたのか。なぜ1人はタイレル社にもぐりこんだのか。
デッカードはタイレル社を訪れる。そこで社長秘書のレイチェル(ショーン・ヤング)がレプリカントであるかどうか、VKテストをするよう社長から強要される。
レイチェルへのテストは難解を極めるが、デッカードは彼女がレプリカントであると見抜く。そして、本人がそれを知らないということも。
デッカードは足が悪いブレードランナー・ガフとともにホールデンを撃ったレプリカント・リオンが泊まっていたホテルへ行き、浴室で何かの鱗を発見する。
ガフは手先が器用な男で、いつも暇つぶしに小さな紙で折り紙を折る。ここでは、小さな人間の折り紙を折っていた。レプリカントへの皮肉であろうか。
レプリカントのリーダー・ロイ(ルトガー・ハウアー)はリオンと合流し、レプリカントの眼球を専門に作っている男を訪れる。
自分たちの製造年月日や寿命を眼球職人に質問するロイとリオンだが、職人はわからない。ただし、JFセバスチャンという名前を聞き出す。その男が、タイレル社長につながる鍵だと。
デッカードが帰宅するとレイチェルがいた。自分がレプリカントなのかという質問をデッカードにぶつけるレイチェル。
デッカードはつい、本当のことを口にしてしまう。彼女が持っている記憶は、タイレルの姪の記憶を植え付けられたものだ、と。
ショックを受けて立ち去るレイチェル。
JFセバスチャンは住居のそばで身寄りのない女性を拾い、自分が住む部屋に案内する。彼はタイレル社のエンジニアで、自分が作ったロボットたちと暮らしていた。
女性の名はプリス。彼女はロイの手下のレプリカントであるが、セバスチャンはそれを知らない。
デッカードはユニコーンの夢を見ていた。
目覚めた彼は、リオンの部屋から押収した写真をコンピューターにかけ、細部を確認して見る。
写真の隅の鏡に、小さく女性が写っていることに気づくデッカード。
デッカードは町の情報屋に、例の鱗を調べさせた。それは蛇の鱗で、しかも人工物であった。
人工蛇が売られた場所はチャイナタウンのクラブ。そこで人工蛇を使ったダンサーにアタリをつけるデッカード。
そのダンサー、ゾーラは楽屋で突如、デッカードに襲いかかり、彼の殺害を試みる。。
それに失敗すると彼女は夜の街中へと逃走を図る。デッカードの銃が火を吹き、ゾーラはショーウインドウの中に倒れ込み絶命する。
ゾーラ射殺現場に現れるガフとブライアント。2人の口からデッカードは、レイチェルがタイレル社から脱走したことを知る。
2人と別れたあと、レイチェルを見かけた気がしたデッカードは、人混みの中を彼女を追う。
しかしそこでリオンに捕まる。彼は怪力だ、接近戦でデッカードに勝ち目はない。
デッカードを助けたのはレイチェルだった。彼女の銃が火を吹き、リオンを射殺。
デッカードの部屋。レイチェルは自分の製造番号などを彼に質問するが、機密だから知らない、とデッカードは答える。そして彼女は最後に妙な質問をする。
「例のVKテスト、あなたは受けたことある?」
JFセバスチャンの部屋。プリスがまるで人形のようなメイクをしている。突然、その部屋に別の男がやってきた。ロイだ。
セバスチャンは自分がはめられたことに気づく。
頭脳明晰な彼はタイレル社長とチェス仲間で、社長と気安く面会できる数少ない人間だったのだ。そのセバスチャンさえ、チェスで社長には勝てない。しかしロイの頭脳は社長と同じだ。セバスチャンからチェックメイトされ、驚き、彼を部屋に招き入れる社長。
その後ろからロイが入ってきた。
ロイは社長に、自分たちの寿命を伸ばす方法がないのか質問する。いくつもの具体例を挙げるロイだが、社長はすべて実験し、失敗したことを告げる。
彼らはもう直ぐ死ぬしかないのだ。
ロイは社長とセバスチャンを殺し、逃亡する。
情報を受けたデッカードは社長と共に死んでいたセバスチャンの部屋に行く。
謎の人形たちの中に紛れていたプリスを射殺したその時、ロイが帰ってくる。
ロイはデッカードをいったん捉え、利き腕の指をへし折り、再度、解放する。デッカードは指を折られ、満足に引き金も引けず、ビルからビルへの逃亡もままならない。
レプリカントの圧倒的身体能力の前になすすべもないデッカード。逃げ回りながら、ビルの屋上から落下する。
しかしその手を、ロイがしっかりと掴む。
ロイが、デッカードの命を救ったのだ。
「死ぬ時間だ」
ロイは動かなくなった。4年の寿命が尽きたのだ。
デッカードが部屋に戻ると、レイチェルはまだそこにいた。
彼女の手を取り、逃亡を図るデッカード。
部屋の外には…
ガフが作った折り紙があった。
ユニコーンの折り紙が。