*注意!!当ブログは、「オリエント急行殺人事件」のストーリーの一部について触れています。
犯人名など詳細には触れていませんが、最初から真っ白な状態で映画を見たい方は、映画の後にお読みになることをお勧めいたします。
ケネス・プラナー監督作品「オリエント急行殺人事件」、新作映画が明日、封切られます。
アガサ・クリスティの代表作と言っていい本作、犯人が誰か、などはかなり知られていますが、豪華絢爛なオリエント急行の一等車両で起こった不可解な殺人事件、まさに映像化するにはもってこいの内容です。
新しい映画がどんな解釈で本作を描いているのかがとても楽しみです!!
実話部分
ご存知の方も多いかと思われますが、本作の極めて重要なパーツの一つに「アームストロング事件」というものがあります。
裕福なアームストロング大佐の屋敷から幼い一人娘が誘拐され、身代金を支払ったものの遺体となって見つかる、という痛ましい事件。
オリエント急行で行われた殺人は、このアームストロング事件に関係がある、とポアロが気づくあたりから、物語は急展開していきます。
この「アームストロング事件」は、実際に起こった「リンドバーグ事件」がベースとなっています。
リンドバーグ事件とは
輝かしい栄光
チャールズ・リンドバーグは若干25際で、世界で初めて、ニューヨーク=パリ間を単独無着陸での飛行に成功し、一躍世界的有名人となりました。1927年のことです。
この時の模様はビリー・ワイルダー監督、ジェームズ・スチュアート主演「翼よ!あれが巴里の灯だ」に丁寧に描かれています。
世界的な名声と巨万の富を得て、美しい妻、可愛い子供に恵まれて、幸福の絶頂にいた彼を襲ったのが…。
リンドバーグ事件
当時わずか1歳だった長男が、自宅から何者かに誘拐される、という事件が発生しました。
この誘拐事件は、まさに犯罪史上最も有名な事件の一つとなってしまいます。
当時のマスコミとは新聞が主流で、しかもその新聞はやりたい放題。屋敷の覗きや盗聴なども平気で行なっていたそうです。
そのため、この事件については連日、詳しすぎるほどの報道が流出。
もはや犯人さえ、迂闊にリンドバーグに接触できなくなってしまい、事件は混沌としてしまいます。
第三者の仲介
事態を見かねた、まったくの第三者であるコンドン博士という人物が、新聞に「私が仲介者となる」と広告をうち、犯人は博士に連絡を取るようになります。
こうして博士とリンドバーグ本人が犯人と接触、身代金の受け渡しに成功するも…。
長男は、戻ってはきませんでした。
最悪の結末
その数ヶ月後、幼児の腐乱死体が山中で発見されます。腐乱はしていたものの、着ていた衣類などから誘拐された長男だと夫妻は認めます。
犯人逮捕
2年の月日が流れ…。
1人のドイツ人男性が逮捕されます。
実は、身代金は全て番号が控えられており、この男性が使用した紙幣がその番号に相当する、いわゆる「リンドバーグ紙幣」なるものでした。
ハウプトマンという名の彼が犯人であるという証拠は多数。
・脅迫状に書かれた文字は、スペルミスも多々、見られ、そのどれもがドイツ語に近いタイプミス。犯人は教養の低いドイツ移民の可能性。
・唯一、犯人と接触したコンドン博士とリンドバーグ本人が、「犯人にはドイツ訛りがあった」という証言…。
・誘拐時に使われた木製のハシゴは手作り。
・逮捕されたドイツ人の職業は大工。
すべて、この人物が犯人であることを示していました。
ハウプトマンの反論
ハウプトマンは無実を主張します。
・紙幣は自分が金を貸していた人間から手に入れたものである→この人物は事件の数年後、ドイツへ帰国し、ドイツで死去。
・木製のハシゴは極めて稚拙(チャチ)な作り。自分は大工で、あんなハシゴは作らない。
・自分には当日のアリバイがある。
など、今になれば彼の反論は傾聴すべき点もたくさんあります。
いけにえ
当時の人々は血に飢えていました。
なんの罪もない子供を情け容赦なく殺害した、鬼畜のごとき犯人。
何としても犯人を探し出し、八つ裂きにしないと気が済まない、という空気が社会を満たしていました。
それは、扇情的に書き立てられる当時の新聞により、煽られていたと思われます。
証言を覆すリンドバーグ
リンドバーグ本人も、早くこの事件を終わらせたい、と思っていたようです。
当初、彼は
「身代金の受け渡し時において、自分は犯人の声を聞いていない」
と証言していたにもかかわらず、のちに証言を翻し、
「犯人はドイツ訛りがあった」
と証言しています。
その他の証言者たちも…
また、そのほかの証言者たちも、当初は被告に有利な証言をしていたものたちが、被告に不利な証言に訂正する、ということが多々ありました。
当時、裏でメディアを操作していた人物が、大衆が最も期待する結末へと導くべく、証言者たちを買収していたとの説があります。
全てがハウプトマンに不利に
当日の彼のアリバイを証明するはずの出勤簿も、なぜか紛失してしまいました。
彼の弁護士はそもそもがリンドバーグの信奉者で、ハウプトマンに接見する際はいつも酔っ払い、彼の言い分には耳を貸さなかったと、のちに発見されたハウプトマンの手紙に書かれていました。
70歳を越えていたコンドン博士。わずかにしか聞いていない犯人の声が、2年を経過してから聞いたハウプトマンの声と同一だ、と断言するには、少し慎重にならなければいけなかったのでは…。
まるでいけにえの処刑
そして裁判が始まってわずか1ヶ月で彼の有罪が確定、控訴はすべて棄却され、たった1年後に彼は電気椅子で処刑されてしまいます。
現在では、これは史上最悪の冤罪事件なのではないか、という考え方が濃厚です。
奇説も
長男は生きている?
発見された幼児の死体は腐乱が進み、まったくわからない状態でした。夫妻が息子だと判断したのは、着ていた衣服からのみ。
実は、彼は生きている、という説もあります。
リンドバーグ犯人説
誤って長男を死なせてしまったリンドバーグ本人が、誘拐事件をでっち上げた、という説もあります。
これらの奇説も飛び交う本件ですが、もはや真相は永久にわかりません。
リンドバーグの晩年
こののち、リンドバーグはアメリカを離れ、ヨーロッパで過ごすことが多くなります。
やがて、ともすればナチス寄りの発言が多くなり…。
第二次大戦では、時の大統領ルーズベルトにより、空軍への復帰を拒否されています。
現実には、永遠の謎
リンドバーグ事件、すべての人間を不幸のどん底に突き落としたこの事件は、ハウプトマンの死刑という形で幕を閉じているため、その真相は永遠に謎のままです。
ですので、せめて虚構の中で…。
名探偵・ポアロの手で暴かれるその真相と、それに伴って起こる、「オリエント急行殺人事件」は…。
せめてもの正義を願う、人々の魂の叫びだと言えるかもしれません。
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