妻:叔母さんのS子のことやけどな。
夫:おお。あの、「史上最強の叔母さん」やな。
妻:そうそう。
夫:普段はめっちゃ優しい人やんな。
妻:そう。野良猫で死にかけてたブラッキーを保護したのもS子叔母さんやし、近所の捨て猫で、新顔が確認できたら、その子を保護して、動物病院で避妊手術受けさせてあげてる。もちろん自腹で。
夫:素晴らしい人格者や。
妻:動物病院のドクターも、S子が野良猫の新顔を連れてきたら、もう苦笑いやねん。「またですか〜(^◇^;)」って顔で。で、秘密やけど、格安の値段で避妊手術してくれてはる。
夫:そうらしいね。素敵な話や。
妻:そんなS子やけど、怒らせたらコワイ。
夫:知ってる知ってる。
妻:昔、S子が中古でBMWを買ってん。
夫:えっ!そうなん。それは知らんわ。
妻:で、仕事に乗って行っててんけど。
夫:ウンウン。
妻:駐車場に止めてたら、10円で傷つけられてん!
夫:マジで?!
妻:マジで。
夫:そりゃハラ立つな!S子じゃなくても!
妻:しかもS子のBMWだけじゃなくて、周辺に停めてるクルマのほとんどが傷つけられてるねん!!
夫:ええっ!悪質!!
妻:でも…
夫:でも?
妻:唯一、傷つけられてないクルマがあってん。
夫:えっ…
妻:めっちゃ古い、カローラやってんけど…
夫:その持ち主が…怪しくない?…
妻:普通、そう考えるやんな。
夫:そうやな。
妻:カローラの持ち主、松田っていうねん。S子の工場の、隣の工場の社員で、成人した子供がおるオッサン。S子とは顔なじみ。
夫:「カローラ」乗ってる「松田」か…。
妻:で、S子、松田のとこに探りに行ってん。「最近、あの駐車場で、クルマに傷つけられる事件が多発してるみたいですねぇ〜」って。
夫:ふんふん。
妻:でも松田のやつポカーンってアホみたいな顔してたらしい。さすがのS子も、「あれ?こいつ、アホすぎやな?犯人、こいつではないかも?」って思ったらしい。
夫:なるほど。
妻:ところが、クルマへの傷つけは1回で終わらず、2回も3回も。
夫:そうなんや!他のクルマも?
妻:そう。
夫:悪質やな!
妻:でもなぜか、松田のカローラだけは無事。
夫:…。
妻:ついにS子は決意した。
夫:な、何を?
妻:駐車場は、平面駐車場で。そのお向かいに家が建ってて。
夫:ウンウン。
妻:その家の屋上からは、駐車場全体が見渡せる。
夫:まさか…
妻:S子、その家のご主人さんに掛け合って、朝イチで、屋上に登らせて欲しいって。
夫:それはつまり…?
妻:朝、ちょっと早めに出勤して、工場に行かないでその家に行き、屋上に登り、屋上から駐車場を監視や。
夫:刑事(デカ)やな!発想が!!
妻:オペラグラスなんか用意したりなんかして。
夫:やるなあ。
妻:でもなかなか尻尾を捕まえられず、一週間が経過。
夫:執念…
妻:さすがに毎日、他人の屋上に登らせてもらうのも悪いし。今日が無駄足やったら作戦中止や、と思ってたその日や。
夫:きたか?!
妻:カローラから降りた松田が。
夫:?!
妻:S子のBMWに「キュイ〜〜〜〜ン」って傷、つけよった!!
夫:犯人(ホシ)は松田かっ!!
妻:次の瞬間!!S子は叫んだ!!
夫:なに?
妻:コッラァ!!クソ松田ぁぁぁ!!おんどれ何さらしとんじゃぁあ!!
夫:向かいの家の、屋上から?!
妻:「見た」からナァッ!!たった今、この目ぇで「見た」からなぁぁ!!おんどれ、そこ一歩も動くなよぉっ!動いたらコロスどクソがぁ!!
夫:こ…コワイ…
妻:ケーサツ呼ぶからナァァ!!一歩も動くナァァ!!
夫:松田…
妻:S子は向かいの家の屋上にいたわけで。
夫:う、うん。
妻:①屋上を出て、
②階段を1階まで降り、
③玄関で靴を履き、
④その家を出て、
⑤向かいの駐車場まで行く、
っていう段取りを経ないと駐車場まで行けない。その間、約3分や。
夫:そんなもんかな。
妻:でも松田、あまりのS子の迫力に圧倒されて、その場を一歩も動かれへんかってんて。
夫:腰抜けたんやろな…あまりの恐怖に。
妻:S子は社長の嫁や。知らせを聞いたウチの工場の子ぉらも飛んできて、ケーサツ来るまで松田を包囲。
夫:松田…。殺されるぞ…。
妻:ケーサツが来るまで、松田、怖くて泣いてたらしい…。
夫:そやろな…
妻:ケーサツでの取り調べ、松田の成人した息子も駆けつけ、自分の親父をビンタして、「S子さんに謝れ!!」って、足蹴にされて…
夫:松田…
妻:土下座して謝ったらしい…
妻:S子の執念の勝利やな…