M・ナイト・シャマラン監督の映画は好きです。「シックス・センス」で見せた独特の世界観は他に類を見ないものでした。
「ホラー」のカテゴリーの中に、絶望と希望を絶妙に織り交ぜ、観客が惹きつけられるギリギリのラインで超常現象的要素を盛り込む世界観は唯一無二と言っていいと思います。
「シックスセンス」では幽霊
「アンブレイカブル」ではスーパーヒーロー
「サイン」では宇宙人
この辺りまでは「ホラー」+超常現象の彼の世界観は盤石だったと思われます。
「ヴィレッジ」、この作品で評価が分かれますが、僕は好きでした。エイドリアン・ブロディが強烈で、ブライス・ダラス・ハワードの透明感が美しく、好きな作品です。しかしながら、「ヴィレッジ」には超常現象がありません。怪物、は存在しなかったのですから。
この辺りからシャマラン監督の迷走が始まった、と言ってもいいかもしれません。作品を発表するたびに酷評され、完全に過去の人のように語られ始めました。
しかし酷評されている作品にも名作はあり、また、酷評する意見にもうなずける部分もあり、ファンとしては複雑な心境です。
前作「ヴィジット」が「シャマラン復活」というキャッチコピーがついていたので楽しみに見ましたが…
僕的には「うーん」、な印象でした。もちろん面白いのですが、あれをもって復活と言っていいのかなあ、と。
シャマランの方程式「ホラー+超常現象」、の醍醐味はなく、そもそもPOV(主人公が撮影した、という体裁)という実験的手法で撮られているあたり、なんか迷いを感じました。
そして本作「スプリット」。
本作の世界観は、シャマランの方程式に綺麗に当てはまった作品です。
復活、というなら、本作をもっていうべきだと思います。
STORY
級友のバースデーパーティの帰り、車に乗った3人の女子高生。見知らぬ男が乗り込んできて、3人は眠らされ拉致監禁される。目を覚ますとそこは殺風景な密室…彼女たちはその後、信じがたい事実を知る。ドアを開けて入ってきた男はさっきとは違う異様な雰囲気で、姿を現す度に異なる人物に変わっていた― なんと彼には23もの人格が宿っていたのだ!そして、さらに恐るべき24番目の人格が誕生すると、彼女たちは恐怖のどん底に。
3人 VS <23+1>人格。果たして、3人は無事に脱出できるのか!?
(映画「スプリット」公式サイトより)
3つの軸
ストーリーの軸は3つあります。
1つ目の軸は、犯人と3人の女子高生。余計なイントロなどなく、少女3人は映画が始まって約5分くらいで誘拐されます。そのあとは、地下室と思われる、脱出不可能な監禁場所において多重人格者の犯人と息詰まる攻防を展開します。
2つ目の軸は、多重人格者である犯人と、彼を診察している女性精神科医とのエピソード。彼女は犯人がこんな犯罪を犯しているとは知らず、懸命に治療に当たろうとしています。そして、様々の人格が生まれた理由や、彼らの性格を読み取ります。
3つ目の軸は、3人の女子高生のうち、主人公・ケーシーの過去です。高校では問題児な彼女。その彼女が幼少期に経験したある事柄が丁寧に描かれていきます。そしてなぜ彼女が問題児になったのかが解き明かされていきます。
この3つの軸が複雑に絡み合いながら物語が進行します。特に、3つめの軸は、本筋と関係ないのではないか、と思ってしまうのですが、伏線は最後には回収されていきました。
俳優陣
多重人格者を演じるのはジェームズ・マカヴォイ。「Xメン」で若きプロフェッサーを演じている人ですね。
この人の「顔面力」が面白い!!多重人格者を演じるのに、顔面の筋肉をフル活用して、幼児、中年女性、潔癖症、などを体全体で演じ分け、見ごたえがありました。
そして何より、ヒロイン・ケーシーを演じたアニヤ・テイラー=ジョイの、影のある美少女ぶりが印象深かった。
マカヴォイと対照的に、彼女は表情をほとんど変えません。それには彼女の過去が関係しているのですが。その彼女でさえ、恐怖のあまりに無表情のうちに流す涙…
この、涙の演技が、より見るものに恐怖心を呼び起こします!!
無表情な美少女の涙…
彼女の存在は、今後も要チェックです。
目覚めるシャマランの恐怖
多重人格者により監禁された女子高生の恐怖。
どこか、既視感を覚えてしまいそうな状況。今流行りの監禁スリラーか、と思いきや、シャマランの方程式が目を覚まします。
シャマラン・ホラー最高の調味料である「超常現象」。
一体それがなんなのか、これを言ってしまうとネタバレになるのでここまでにしておきます。
そしてラスト。
ラストが、なんのことかわからない、となってしまう恐れがあると思います。
だからと言って、ここで何かヒントを言うと、カンのいい人はわかってしまうかもしれず…
一つだけアドバイスするとしたら、タイトルにも書いた、
シャマラン監督の世界観を復習してから見るべし!!
だと思います。