走れダイエットランナー!

ポンコツ夫とポンコツ嫁はん。ランニングで健康維持しつつ映画やテレビ見ながら言いあらそうブログです。

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水都大阪ウルトラマラソン外伝3・矢、尽き。刀、折れ。それでも、ゴールを目指したランナーたちの物語。3-3 名も知らぬ、二人の女性ランナーの場合

▼3-1はこちら。

dietrunner.hatenablog.com

 

▼3-2はこちら。

dietrunner.hatenablog.com

 

 

名も知らぬ、黄色いTシャツの二人と、背の高いスイーパーさんの場合

  

僕が出していたエイドは、オフィシャルエイドの豊里エイドのすぐ横にあった。スタート地点から言うと、25kmくらいの地点だ。

 

朝のうちはまだ涼しく、エイド用に準備したオレンジはまだ出していなかった。9時を回り、日差しがきつくなってきたので、そろそろタッパーからオレンジを取り出し、

 

「オレンジあるよ!オレンジ食べて行ってー!」

 

と声をかけ始めた。

 

スタートしてまだ2時間ちょっと、まだまだ元気なランナーたちは、オレンジを摂らなかった。

 

最初にオレンジを口にしてくれたのは、3名の美女たち。同じウェアに身を包んでいた。

 

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蛍光黄色の、2016年名古屋ウィメンズマラソンのフィニッシャーズTシャツ。

  

そして下半身に、チュールで作った、黄色いスカート状のものを巻いている。

 

そして頭には、ピカチュウの耳だろうか、黄色いツノみたいなのがついたカチューシャをはめている。

 

そんな美女軍団が、楽しそうに笑いながら走っていた。

  

僕が彼女たちに声をかけると、彼女たちは立ち止まり、オレンジを食べてくれた。

 

「めっちゃ美味しい!!」

 

「冷たいのが嬉しい〜〜!!」

 

彼女たちはハイテンションで喜んでくれた。

 

 

やがて、遅れていた一人が合流。

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後から来た一人は、他のランナーより少し長く僕たちのエイドにいた。

 

「あと一人、来ますんで!!」

 

と言い残し、彼女も去って行った。

 

その約2分後。まったく同じウェアの若い女性がやって来た。

 

「おんなじ格好した人らがさっきこのオレンジ食べてくれたよ!!」

 

と僕は言った。すると彼女も立ち止まり、オレンジを口に含み、

 

「美味しいぃ〜〜!!」

 

と言ってくれた。この大会を心から楽しんでいる様子であった。

 

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ただ、一つだけ気になることがあった。

 

最後の女性が通った、ほんの1分後くらいに、スイーパーを従えた最終ランナーが通った。

 

スイーパーとは、簡単に言うと、制限時間内で最後尾を走るランナーのことだ。

 

つまり、黄色軍団の、特に最後の彼女は、関門ギリギリのペースで走っているのだった。

 

とても目立つ服装、とても陽気な女性たちだったので印象深かった。

  

さて、スイーパーが通り過ぎたということは、折り返して来るまではランナーはしばらく通らない。

 

僕は、ランナーを追いかけて、各エイドの写真を撮るべく、自転車にまたがった。

 

豊里エイド、鳥飼エイド、新橋エイド、枚方エイド、と写真を撮った。

  

実はこの大会、100kmの部は関門が4つあるが、70kmの部は関門は1つしかない。

 

34.6km、枚方エイドを4時間半で超えればいいのだ。

 

枚方エイドにたどり着いたランナーたちは、さらにそこから少しだけ直進する。そして1km弱の距離にある折り返し地点で、チェックポイントのスタンプをもらうのだ。

 

僕はこの折り返し地点まで自転車で来て、スタンプをもらっているランナーさんを写真を収めた。

 

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そして、ランナーさん同様、折り返して、自分のエイドに戻ろうと思った。

 

折り返し地点へと向かう、たくさんのランナーさんたちとすれ違う。僕はゆっくり自転車をこぎ、

 

「ナイスラン!もうすぐそこ、折り返しやで!!」

 

と声をかけていた。

 

すると…

 

あの、黄色軍団の、最後の一人の女性が走っていた。相変わらず、笑顔を浮かべ、ゆっくりと走っている。

 

そしてその横には、長身のスイーパーくんがいた。

 

その二人とすれ違うとき、彼女がスイーパーくんに、笑顔で話しかけている内容が耳に入った。

 

「でも、アタシ、関門を越えたわけやから。もう最後まで走ってもいいんですよね?」

 

と彼女は聞いていた。

 

自転車ですれ違っただけなので、スイーパーくんの答えまでは聞き取れなかった。

 

「ああ、なるほどなあ…」

 

と、僕は思った。

 

70kmのランナーにとって、唯一の関門である枚方エイドの関門を過ぎれば、もう関門はない。

 

もちろん、制限時間はある。大阪城のゴールに、11時間以内、つまり17:30までに到着しないといけない。

 

ただし、17:30を超えても、走路はまだ生きている。100kmランナーの制限時間は14時間、20:30までだ。70kmの制限時間が終わっても、あと3時間は、100kmランナーのためにゴールは開いている。

 

関門を越えた以上、走り続けるのは自由だ。ただ、17時30分までにゴールできなければ、記録上はDNF*1になる。

 

彼女は今、最初にして最後の関門を越えたわけだ。あとは残り時間でなんとかゴールしてほしい。

 

そう思いながら僕は自転車を走らせた。

 

その後再び、自分のエイドでランナーに声をかけ、応援を繰り返した。

 

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15時になって、毛馬エイドに自転車で向かった。その道の途中で、苦しんでいる友人と出会い、彼女の伴走をすることにした。

 

dietrunner.hatenablog.com

 

友人の横を自転車で伴走しながら、「70kmのスイーパーはどこにいるんだろう…」と不思議に思っていた。友人自身が、もうほとんど間に合うか間に合わないかの境目にいるはずなのに、彼女のそばにスイーパーはいなかった。

 

毛馬エイドで折り返し、かなり経ってからスイーパーが現れた。彼は…

 

あの、黄色軍団の女性と走っていた。

 

しかも黄色軍団の二人と。

 

おそらく、黄色軍団の最後から2番目に走っていた女性と、一番最後の女性が合体したのだろう。

 

この二人が、70kmの最後尾ランナーなのだ。彼女たちがリタイアしない限り、スイーパーくんは彼女たちと走らないといけないのだろう。

 

僕が伴走している友人よりも、はるか後ろを走っている。絶対に、ゴールには間に合うはずはない。 

 

スイーパーくんは先ほど同様、とても背が高い、痩せた青年だった。

 

長身スイーパーと、蛍光黄色を着た二人の美女は、とても目立つ3人組だった。

 

その3人組は、とてもゆっくりとしたペースで、ゴールへと向かっていた。間に合うはずのないゴールへ。

 

17時頃、伴走していた友人と別れ、僕は駐車場に停めたクルマでお方さまと合流した。そしてクルマに自転車を積むと、ゴール地点へと向かった。

 

大阪城の駐車場にクルマを入れ、ゴール地点へ急ぐ。

 

時間は18時。70kmの制限時間、17:30はとっくに過ぎていた。

 

そこで僕は、岩田栄美さんやおかべあいこさんと再会する。ギリギリでゴールできなかった彼女たちの話を聞いた。

 

やがて、友人たちは帰って行った。応援だけで参加している僕たち夫婦は、立ち去り難く、その場に残って、ゴールしてくる100kmランナーに声をかけ続けた。

 

大阪城に入ってきたランナーは、すぐに現れるゴールゲートを横目で見ながら直進し、天守閣の下で最後のチェックスタンプをもらわなければならない。

 

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ゴール横を直進するランナーに、

 

「おかえり!おかえり!あともう少し、天守閣まで!!」

 

と叫び、天守閣から戻ってきたランナーには、

 

「よく頑張った!!100km走った!!すごいよ!!」

 

と叫ぶ。

 

100kmを走破した誇り。きょう1日、頑張り続けた自分自身への誇りで、すべてのランナーの顔は輝いていた。

 

大の大人が、号泣しながら走りこんでくるランナーも、何人もいた。

 

素晴らしい光景だ。

 

19時近くになってきた。日はすっかり落ちて暗くなり、あたりは急速に寒くなってきた。

 

最後までいたかったが、薄着のわれわれは、これ以上ここにいたら風邪をひくだろう。

 

そろそろ帰ろうか。そう思った時だった。

 

向こうから、蛍光黄色のTシャツが2名、やってきた。スイーパーのビブスをつけた、長身ランナーもいる。

 

まさか…。

 

蛍光黄色のTシャツは、2016年の名古屋ウィメンズ。見間違うはずはない、あの二人だ!そして長身のスイーパーも、ずっと一緒に走っていたんだ。

 

そのゼッケンはピンク色。70kmランナーだ。

 

もう1時間30分以上前に、制限時間は過ぎている、70kmランナーだ。

 

彼女たちはまだ走っていたんだ。

 

100kmランナーはまだ時間内なので、走路は生きている。でも70kmランナーは、もう誰もいない。

 

ゴール地点に私物があるのだ、戻ってこないといけないのだ。でも、どこかで電車にでも乗ったほうが、はるかに早く着くのに、彼女たちは走り続けたのだ。

 

チャラチャラしたチュールのスカートを履いた、軽いノリのランナーかな、と思っていたが…

 

スタートしてから実に12時間半以上、走り続けたのだ。

 

蛍光黄色の二人は、笑顔でやってきた。ゴールゲートまでやってきた。

 

お疲れさま、最後まで走ったんだ、えらいね!!

 

 ゴールゲートの横に私物置き場がある。当然、彼女たちはその足で私物置き場に向かうと思ったが…

 

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なんと!!彼女たちはそこには向かわず、直進したのだ!!

 

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それはつまり、70kmを最後まで走りきるつもりなのだ!!

 

ここから実は、あと1km近くあるのだ。しかも、この先には雁木坂がある。かなりの急坂で、ランナー泣かせの坂だ。最後の最後にこんな意地悪をする、関西弁で言うところの「いけず」なコースだ。

 

できるなら疲れた足で登りたくはないあの坂も、登ると言うのか。

 

前を走り去る彼女たちに、僕は聞いた。

 

「70kmやろ?『行く』の?!『行く』の?!最後まで?!」

 

彼女たちは二人とも、笑顔で僕に答えた。

 

「『行く』に決まってるやん!!」

 

彼女たちはそう言って、暗闇に続く天守閣へと消えて行った。

 

ただ一人、長身のスイーパーくんだけが、ゴール前で離脱し、本部席に走って行った。

 

彼女たちは、かなり経ってから戻ってきた。長身のスイーパーくんが、彼女たちに駆け寄った。

 

「今、聞いてきました、ゴールゲート、くぐってもらっても良い、とのことです!」

 

と彼は彼女たちに告げた。

 

そうか、スイーパーくんが離脱したのは、とうに制限時間を超えた70kmランナーの彼女たちが、ゴールゲートをくぐって良いかどうかを本部に確認に行っていたんだ。

 

「ホンマに?!やったぁ〜〜!!」

 

と一人が言った。

 

「〇〇君も!!一緒に!!」

 

もう一人が、長身のスイーパーくんの手を取った。たぶん、彼も、枚方エイドから、ずっと付き合ってきたのだ。8時間以上、彼女たちと行動を共にしていたことになる。もう運命共同体と言って差し支えあるまい。

 

2人の、最も遅い70kmランナーと、1人の長身スイーパーは、3人揃って、ゴールゲートに吸い込まれて行った。

 

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僕たち夫婦の、長い応援の1日は、彼女たちのゴールを見届けて終わった。

 

素晴らしい1日、素晴らしい大会、素晴らしいランナーたち。

 

来年は第10回大会になるそうだ。

 

来年は、ランナーで参加できるかな。  

 

ランナーの皆さん、主催者の皆さん、お疲れさまでした。

 

  

*1:Did Not Finish  リタイアのこと。