(2011年11月20日。第一回神戸マラソンが開催されました。これが僕の初フルマラソンでした。以下のお話しは、初フルマラソンに挑んだ、世間知らずでバカなランナーの物語です)
20km地点から両方のフトモモに現れ始めた「鈍い重み」は、30kmを前にして「強い痛み」にかわっていた。
30km少し手前、沿道の少年と目が合った。両手に、タタミ一畳分くらいのプラカードを、まるで格闘技のラウンドガールみたいに持っている。そこには、青い大きな文字で、こう書かれていた。
「足、いたいやろ?」
僕は大きく2度、うなずいた。少年はそれを見て、クルリと振り返り、プラカードの裏を見せた。
「気のせいや!」
不覚にも、走りながら声を上げて笑ってしまった(^^)
人生初となるフルマラソン、しかも神戸の国道2号線を止めて行われる一大イベント。一年前、体重が100kgあった僕は、まさか一年後にフルマラソンが走れるなんて想像もしなかった。でも今は、25kg減った、練習でハーフなら何十回も走った。30km走だって4回走っている。フルマラソンも不可能じゃない。
計画はこうだ。
まず、30km地点まではキロ7分で走る。僕みたいな初心者は、ゼッタイ、突っ込んではいけない。その程度の自覚はあった。以前、30km走った時はキロ6分で、その時は30km走り終えた時は、もう一歩も走れなかった。でもキロ7分なら?余裕で走れるはずだ。
そのペースで30kmを通過して余裕があれば、残り10kmをスパートかけて、4時間半くらいでゴールする!
今から考えると噴飯ものであるが、前日まではこの計画は完璧だと思っていた。
子供の頃の、遠足の前日みたいなワクワク感(^^)本当に久しぶりに、そんな気持ちを味わった。早く来い来い、神戸マラソン♪
そして、明日は永遠にやってくる。
11/20はやってきた。
妻と妻の従妹はクルマで来るというので、僕は一人で電車で向かった。
▲早朝5:30の八尾駅前。真っ暗。

▲三宮、朝7:00。ランナーもまばらだが、もうスタッフさんは案内板を持って立っている。

▲徐々に集まるランナーたち。

▲いつしかランナーで埋め尽くされる。
スタートは9:00だが、ランナーは8時には整列している。前日まで雨の予報も、ランナーたちの願いが天に届いたか、朝から快晴だ。ただし、寒い。
▲スタート前の寒さ対策に、100均のレインコートを羽織っている。最初の給水所で捨てました。
FB友達の榊原さんが、雨対策の100均の雨合羽は、スタート前の寒さしのぎにもなる、と教えて下さったので、念のため持ってきていた。こいつがあって、とても助かった。
そして、号砲が鳴った!23,000人が、一斉に走り出した!
心が、カラダが、躍動する!ついに始まった!
最初の10kmは、あっという間だった。左手のgarminを見ながら、キロ7分を守るのに苦労した。すぐペースが上がってしまう。
電話が鳴る。妻からだ。どこそこにいる、という。しばらく走るとその場所が見える。探すと、すぐに見つかった。見つけやすい、オレンジのジャージを着てくれている。手を振った。
沿道の声援!ずっと、頭にカニのぬいぐるみをかぶった四人組と並走してて、「あ!カニの集団や〜!」「カニがんばれ〜!」「カニ〜!食うてまうぞ〜!」などと、カニは大人気!心中、「いいなあ!」と思いながら走ってた。向かい風が吹くとカニごと頭が後ろに持っていかれるので走りにくそうだったけど。
カニ人気にあやかって、ギャラリーたちとハイタッチ!必ず「ありがとう!」を忘れずに言った。中学生が、1クラス全員が手を出して待っててくれたりした。超ハイテンションなお婆ちゃん、「がんばれー」も舌ったらずな小さい子供。時々、若いベッピンさんがいたらみんな我先に!とハイタッチ!
めっちゃオモロいわ〜〜!!
15km近辺は道がたいへん細くなり、ランナーの大渋滞が発生していた。徐々に、立ち止まったり、歩くランナーが出てきて、注意しないと衝突の危険が出てきた。
しかし沿道のスタッフさんから、
「海に漁船が出てます!大漁旗でみなさんを応援してます!」
えー、ホンマかいな〜!たしかに逆光輝く海に、たくさんの漁船が見える。ちくしょー!須磨の漁師たちめ!ええカッコしやがって!
熱い思いが胸に広がる。
明石海峡大橋が見えてきた!折り返し地点だ!
▲ランナー渋滞の中、見えてきた明石海峡大橋。
折り返し地点を過ぎ、ふと、あることに気づく。
フトモモが、妙に、重い…。
というか、筋肉が、明らかに疲れている…。
マジ!?まだ半分もきてないで?オレって、そんなにヤワやったん?
たしかに、夏までは快調に練習出来たが、その後、足首を痛めて満足に長距離の練習はできてない。筋肉の衰えは感じていた。
でもハーフ前に筋肉疲労?
ヤバっ…。
あえてその事実には目を向けず、それまで以上にハイタッチ!
笑顔を忘れないよう気をつけた!きっと、すぐ治るって!
しかし足はドンドン重くなっていく…。
妻から電話。ハーフ地点にいる。
ここでぼくはミスを犯した。
「なにがいい?水?ポカリ?おにぎり?バナナ?」
「水でええわ」僕はボルヴィックのペットボトルを腰に差した。
「え?食べ物は?」
「今はええわ」
といって、せっかく妻が用意してくれた食べ物を口にしなかった。フトモモ痛のせいで注意が散漫になっていた。
以前、FB友達で、ウルトラランナーの浅井さんから、10kmごとにエネルギー補給をせよと聞いていたのに、それを怠った。
足の重さは痛みに変わっていた。まずいなー。
歩いているランナー、止まって屈伸しているランナーがいる中、自分は走り続けた。まだ大丈夫!
トイレにも行きたい!しかし目にするトイレはどれも大行列!どんだけみんなオシッコ我慢しとんねん!
フトモモと膀胱の、二重苦を抱えながらのラン。
給水所、テーブルの上には何もない。紙コップが不足していたみたいだ。ペットボトルごと、水を手渡していた。ランナーから不満、不安の声が上がる。直後の自販機に長蛇の列ができていた。
この点、僕はほっとした。腰に差したボルヴィックがある。
25km、須磨浦公園近辺。若い頃、いったい何回、ここに海水浴にきただろう!ビキニのネエちゃん見ながらグラサンして、真っ黒に焼いて、イキってたなあ!いまはタイツはいてグラサンして、走ってるで!
などと自分自身におもしろコメントしても、足の痛みは引いてはくれない…。
妻から電話。30km地点にいる。妻と従妹は、キロ7分で計算し、僕の到着時間をシュミレーションして先回りしていたそうだ。
30km地点で妻と会ったら、とりあえず、食べ物をもらって、とりあえず、屈伸運動しよう。足がもう限界だ…。
ところが、僕はこの30km地点で、妻から食べ物をもらうことができないのであった。(ここでなにがあったか、興味のある方は僕の「パンサンド盗難事件!」を見てください)
屈伸して気づいたが、右のフトモモは、こむら返り寸前だ。ふくらはぎも、なんか、見たことないカタチになってる。右ヒザの裏も痛い。
最初の計画では、ここからスパートかける予定だった。
アホかっ!
ここまで約3時間50分。
最初の計画では、4時間半でゴールする予定だった。
ドアホ!
あと40分で残り12.195km走ろう思たらオマエ、1kmを3分?4分?
と、とにかくメッチャ速く走らなアカンやん!ゼッタイ無理やん!
フトモモの筋肉の疲労は尋常でなく、とくに右の内側は激痛を伴い始めた。
腹へった!あっ!バナナや!
マラソンのバナナほど美味なものはない、と何かで読んだ。そんなアホなことあるかいな、バナナはバナナや、味なんか変わるかいな…(パクっ)
ホンマや〜〜!!(゚∀゚)
メッチャおいしいやん!おっさん、もう一本!ネエちゃん、そっちの皮むいたやつもちょうだいか〜〜!!
バナナをムサボリ食う人々。ゾンビ映画っぽい風景が展開されていた。
さて、フトモモの痛みに耐えながら走っていると、ある考えが頭をよぎった。そして一度よぎると、もうそれしか考えられなくなった。
タイツを脱ぎたい!
変態か!と思わず聞いてほしい。この日はもちろん勝負タイツを着用していた。泣く子も黙る有名ブランド。股関節とかヒザとかサポートしてくれるアレだ。
ハーフまではこいつ着用で練習経験はある。問題ないどころか、走りをサポートしてくれる、いい感じだった。
しかし今は、こいつによる締め付けが気になる!
血ぃが、止まっとるんちゃうか!?
トイレ問題もまだ解決していない、そんな中、救世主が現れた!
33km地点、神戸市中央卸売市場で、従業員と思われる皆さんの声援!その中に、
「トイレありますよ!」の声!見ても、行列も何もない!
僕は建物の中に入り、トイレの個室で、まず靴を脱ぎ、短パンを脱いだ。足がガクガクして、そんな行為すらまともにできない。そしてタイツを脱いだ。
正直な話、フトモモに血流が甦る「ジュワ〜」っと感があった。
よっしゃ!これで復活や!
用も足し、脱いだタイツは腰のベルトに巻き付け、大急ぎでコースに復帰!タッタッタッタッ…
やっぱり足いたいやん!
時間ロスしただけやん!
しかもこのあたりからは、腰も痛くなってきた。これはシャレにならない。一ヶ月以上走れなかった腰痛だ。悪化させたら完走すら危うい。
100m走っては屈伸、前屈、を繰り返し、繰り返しのラン。
このあたりから記憶が定かではない。顔は苦痛に歪むが、事前に「笑顔で走れ!笑顔で走れ!」をプログラムしといたので、オレの顔はロバート・デニーロの泣き笑いみたいな顔になってただろう。とにかく沿道のみんなとハイタッチして元気を貰いながら、後方ランナーに注意しながら立ち止まって屈伸を続けた。
神戸大橋。唯一の、登り。なだらかといっても良い角度だけど、今のオレにはまるで壁だ…
いや、オレだけじゃない。
今ここの全ランナーにとってそうみたい。
その坂を登っていくランナーは、まるでクモの糸を這い上がろうとする地獄の亡者みたいにヘロヘロ。
ここは自動車専用道路だから、沿道ギャラリーはいない。そのかわり、スタッフのみなさんがたくさん集まって、必死に応援してくれている!
もう泣きそうや…情けない自分、手を叩いて声をからして応援してくれる人たち、青い空と海…
「がんばってください!もうポートアイランドですよ!」めっちゃかわいいボランティアスタッフにそう言われた。しゃがみ込んでた僕は、
「ポートアイランド…?」
「そうです、ポートアイランドです!ゴールがあります!」
「…遠いなあ!」( ;∀;)
▲写真なんか撮れる精神状態じゃなかったけど、これを撮らないと一生、後悔するとまで思った美しい光景も、ピンぼけ…
garminはキロ9分とか、10分とか、そんな時間。ポートアイランドに入っても、あとたった5kmが永遠に思える。
もう5時間を回ってしもうた…
4時間半の目標:未達。ずっと笑顔の目標:未達。
あとたった一つの目標:最後まで歩かない。
早歩きの人と並走する程度のスピードだが、屈伸のため立ち止まる以外は歩いていないぞ。
たった1kmが、いつもの5km、いや10kmにも感じる。
そしてついに42kmを過ぎた!
前方から、ゴール地点のアナウンスが聞こえてきた!「お帰りなさーい!」の声!
でもまだつかない!
その時、電話が鳴った。
「もしもし?チエですけど?もうゴールした?」
東京からナオミさんの応援にきてるチエちゃんだ!「まだやねん、もうすぐやけど」
「ゴールのすぐまがったとこにいるからね!がんばって!」
ということは、もうナオミさんはゴールしたな…くそー、東京マラソン6時間半とか言うといて…めっちゃ記録更新してるやん…
っていうか、うちの嫁さんはどうしたんや…
"FINISH"
の門が見えた!
ついた!ついたでーー!!
▲ゴールの瞬間。妻の従妹の寿子が撮影。
その時、電話が鳴った。妻からだ。
「おめでとう、ようゴールしたね!」
「え、なんでわかるん?」
「見えてるよ。ゴールのすぐ横にいるよ」
garminに目を落とす。05:48:43…
情けない…サブフォーランナーがゴールして映画一本見れる時間かかってるわ…
こうして、大バカものの僕の、初めてのマラソンは終わった。30km地点ではもう二度とこんなことするかと思っていたけど、ゴールの後は、また練習しないと、と思っていた。できることなら、また神戸を走りたい、と強く願っていた。
このあと、我々は訳あって、警察署に移動することになる。(だからそれは「パンサンド盗難事件!」のことなんだけどね)その道すがら、妻が一つだけ残っていたおにぎりを僕にくれた。パクリ。
…!…!おいしいいぃ〜〜〜〜〜っ!!!
!!( ;∀;)!!